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2009.12.02 *Wed*

ハチミツ


BLACK COFFEE」の直樹Ver.です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


日曜日―――――――。


会社のソファーで目を覚ます。
キリのいいところまでと始めた、たくさんの中のひとつでしかない仕事。
その仕事でさえやり遂げるのに、空が明るくなるまでかかってしまった。
やり終えた後の充実感よりも、これをあと何回すれば目処がつくのかという虚無感の方が強い。
そんなことを朝焼けの空を見ながら、ソファーに寝転んで考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


もう、昼前か。
身体がだるい・・・。
のびをすると、身体中がみしみしと音をたてるのが、余計に不快感を与える。
縮こまった手足。冷えた身体。
一度家に帰って風呂で温かい湯につかり、一回ベッドで軽く休む方がいいのかもしれない。
日曜で誰もいない会社で、前日に買っておいたコンビニのパンをつまみ、少しむせながらタクシーを呼んだ。


タクシーの中から外界をぼんやり見てると、街路樹の葉がもう半分くらいしか樹に残っていないことに気づく。
寒くなってきたはずだな。

来週は俺と琴子の結婚式―――――――。



家の玄関のドアを開けて、いつもと違う空気に戸惑う。
てっきりおふくろや琴子のけたたましい声に、また俺は仏頂面になることを想定していたのに、この予想外にしんと静まりかえった冷気は何なんだ。
日曜日なのに、みんな居ないのか?

リビングに足を入れると、琴子だけが俺から見て横向きにソファに座っているのが見えた。
リビングの大きな窓から入る光のために、この部屋だけは春の陽気がただよっている。
カーテンから透かして入った光が、琴子の周りでキラキラといろんな色を奏でて反射しているのがわかる。
琴子の髪の色も光のせいで、茶色や、黄色や、金色、オレンジ色が混ざっている。
―――――きれいだ。

ずっと会社でモノクロの世界しか見ていなかった俺。
そういや、さっき見た街路樹に色はついていたのか。
急に自分の中に、色のある世界がぱあっと拡がっていくのを感じる。
喉もとに温かいものがこみあげる。


まだ俺の存在に気づいていない琴子は、緩んだ口元から笑みをこぼし、光の差す方をぼうっと見ている。
急に口元を手で覆って、「きゃああああ」と叫んだかと思うと、自分の手で自分の足をバンバンとたたき、天を仰いでへらへらと笑いだした。
バカか、こいつは・・・・・。
それでもつられて、俺の口元も綻びる。


「久しぶりに見たら、相も変わらず、妄想タイム中か・・・」
「へっ?・・・ひぃ――――――――っ!!」
琴子が、目をまん丸に見開いて、ソファーから転げ落ちる。
この古典的な展開に、どこか安堵する俺。

「い、い、入江くん・・・なんで、なんで?」
「泥棒見たみたいな顔すんなよ」
「・・・・本当に泥棒かと思った・・・」
「風呂入りに来たんだよ。あと、着替え取りに」

仮にも婚約者の俺を本当に泥棒と思ったのか?
でも、もしここに泥棒が入ってきても、こいつは絶対気づかないだろうと思うと、この無防備さがやけに癇に触る。


「みんな居ないの?」
「あ・・・うん。おばさんとおじさんは、結婚の報告とかで親戚のおうちに何軒か行くって・・・、裕樹くんはお友達のサッカーの試合観に行って・・・お父さんは仕事だし・・・」
正直、誰がどこに行こうとあまり興味はないが、今この家に琴子が一人だけだということが、妙に鮮明に俺の頭の中にインプットされる。

「ふーん。俺、シャワー浴びるから、あとで俺もそのコーヒー淹れて」
琴子のぎゅっと握っているカップを見つめて言う。
「え、うん、うん!コーヒー淹れとくね!」
琴子がうれしそうに火照った顔をして、ぶんぶんと首を縦に振る。
それを見て、少し口元が緩むのを隠して、俺は浴室へと向かった。


シャワーを浴びてから、浴槽に即席に入れた湯に浸かる。
はあ・・・。
温かい湯が、身体の緊張と強ばりをほぐしてくれる。
そして、さっき少し見ただけの琴子の一挙一動が鮮明に頭の中でリピートされる。
きらきらした光の中で、笑い、叫び、まん丸にした目で驚き・・・そしてあの火照った顔。
身も心も、どんどんとほぐされていく。
湯の中で指を一本一本広げていきながら、風呂から上がるとこの家におれと琴子しかいないと言う状況を考えると、指先までざわざわと血が巡るのを感じる。
緊張は解けたというのに、またその感情に近い高揚感が俺をおそう。




「はい、これコーヒー、ブラックでいいんだよね」
「何、目、瞑ってんだよ?そんなんでコーヒー渡すなよ。あぶねーな」

風呂から上がった俺に、いきなり立ったままコーヒーを付き出す琴子。
その上、目を瞑ったまま少し斜めにしたカップを渡すから、思わずひやっとする。

「え?え?そこ、そこ、座るの?」
「座っちゃいけないのか?」

俺に立ったままこのコーヒーを飲めというのかよ。
琴子と並んでソファーに座る。
琴子は自分のコーヒーに砂糖を4杯も入れていた。
おいっ、そんな甘いコーヒー飲めるのか!?

琴子はまたさらに顔を赤くしたかと思うと、今度は悩んだような顔をして何やら小さな声で、少し口を尖らせて、ぶつぶつと呟く。
こいつ・・・、かなりヤバイよな・・・。
そう思いながら、こいつと結婚する自分のことを思うと、なんだか笑えてくる。
そして、ずっと琴子しか見てない自分に気づき、慌ててコーヒーを飲む。


「おまえ・・・また妄想タイムか?」
いっこうに俺の方を向こうともしない琴子に声をかける。
「へ?」
「せっかく、久しぶりに会えたのに、冷たいよなあ」
わざと皮肉っぽく琴子に向かって言う。

「そ、そんなことないっ。ものすごくうれしいよ」
「じゃあなんで、前ばっか向いてしゃべるの?」
「え?そ、そう?いつもこうだけど?」

変に姿勢をまっすぐにして前ばかり見ている琴子がおかしくてたまらない。
こいつ、緊張してるんだな。
俺と二人っきりだと言うことを、かなり意識してるのだろう。
いつもなら、からかってやろうという気がするところだが、今は、琴子の緊張が俺にまで伝わってきてなんとも言えない空気を作り出す。
ざわざわとした感情と、ドクドクと血が流れる感じ。
とりあえずまたコーヒーを飲む。

琴子もコーヒーを飲む。
あんな甘いものをよく飲めるもんだ。
琴子の喉がこくんと甘いコーヒーを飲み込むのを見る。
飲み込んで、少し確認するような顔をして、また飲む。
また、喉がこくんと動くのを見る。
こくんと鳴る喉の音まで聞こえる。
そして琴子がコーヒーを飲む度に、何やら甘い、少しアクのある匂いが鼻につく。



今、俺の五感は最高に冴え渡っている―――――。



「なあ」
「な、なに?」
「なんか、匂う」
俺は、その匂いが何なのか確認する前に、気がついたら、琴子の顔に自分の顔を近づけていた。
琴子のカップに添えられただけの小さな手が、視界に入る。
匂いの根源もわからないのに、思わず琴子の手を握って、カップから放す。
そしてあの甘いアクのある匂いは、この琴子の手からだと確信する。


「あ、それは、ハンドクリームが、ハチミツの匂いなんだよ。結構匂うでしょ」
「ハチミツ?ふーん・・・」
やはり匂いの根源はこの手か。
ハチミツ。

気がついたら、俺は琴子の指に唇を押しつけていた。
まるで、花の蜜をやっと探し当てたミツバチのように。
甘い香りにくらくらする。
先ほどまで、あまりに鮮明に見えていた輝きのある世界が、急にぼやっとセピア色の世界に見えてくるような錯覚に陥る。
でも、会社にいた時のようなモノクロの冷たい世界とはまた違う。
それは温かい霧の中に包まれたような安心感と、ざわざわとしたものがさらに増大するような、相反した感情。


琴子が一瞬俺を見たと思う。
セピア色のもやの中で、琴子のある部分だけが、朱く浮き上がって見える。
そしてそこを目指して、また唇を近づけ、落とす。


「もしかして・・・もしかして入江くん今・・・」
「おまえって、全部ワンテンポずれてるよな?」
「・・・キスした?」
「うん。気づいてないんだ?」
きょとんとした顔の琴子が、今日は素直にかわいいと思う。

琴子の頬の辺りまで、朱色がぼんやりと滲み出てきている。
目の前で百面相のように表情をころころ変えている琴子をずっと見ていても飽きない。
でも、まだ俺の中はセピア色のもやがかかったような世界が続いている。
そして、やはりそこだけが特別朱く見える。
目指す花。
琴子の手を握ったまま朱い部分まで手を伸ばして、親指ですうっとなぞるとしっとりとした格別の感触がする。
極上の花。


「じゃあ、おまえに合わせて、今度は絶対わかるように」


俺の中のもうひとりの自分が思いがけない甘い言葉を発する。
そして琴子の握った手をぎゅっと握り直して、自分の言葉どおりに行動を移す―――――。



甘い、柔らかい。
少し前まで、愚かな自分が手放そうとしていたもの。
やっと気づいて、やっと手に入れた、俺だけのもの――――――。


放しそうになる琴子の手をまたぎゅっと握って、絶対放さないようにする。
今これを放したら、この手はどこをさまようかわからない。
それでも放しそうになる琴子の手を理性で何度もぎゅっと握り直す。

でも・・・・・もう限界かもしれない。
琴子の手を放すと同時に、琴子の朱い部分から意図的に離れる。


「俺、また会社戻るから」

また俺の中のもうひとりの自分が、冷たく、無情を装って声を発する。
とたんにリセットされたかのように、周りの世界がクリアに戻り、彩る。


琴子と顔を合わせないまま自室に上がる。
琴子がどんな顔をしていたのかもわからない。
部屋に戻ると、思いっきりベッドにバウンドさせて、身体を倒れ込ませる。
そうだ、俺は少し眠るために家に戻ってきたはずだ。
縮こまった手足を伸ばすために家に戻ってきたはずだ。
ベッドで思いっきり手足を伸ばすと、腰が痛むことに気づく。
どんな無理な姿勢で・・・と琴子のことを思い出させるが、とにかく今は目を瞑って、無にしようとする。
とにかく少し眠ろう。そしてそれから会社に戻ろう。



数分後、俺は電話を手にして、またタクシーを呼んでいた――――――。


せっかく風呂で温もり、緊張が取れ、部屋着でいたのに、また俺は会社に行くために着替えている。
他に家族がいたら、きっと俺はここで仮眠をとっていただろう。
でも、今、琴子しかいない状況で、とてもじゃないがゆっくり仮眠なんて取れるわけない。
何やってんだ、俺は!
どうして、今日に限って、誰もいないんだ!!
行き場のない憤りに、脱いだ部屋着をきつく床に叩きつける。

ドアをバンッと勢いよく閉めて、また一階へと下りて行く。
ちらっとリビングにいる琴子を見るが、少し身体を斜めにしてソファーに座ったままだ。
表情は見えない。
かえって都合がいいかもしれないと自分に言い聞かせて、そのまま玄関に向かい、ちょうどやってきたタクシーに倒れ込むように乗り込んだ。


ほんの少し前に通った道をまたタクシーで走っている。
街路樹は黄色や紅い色をしていた。
さっきの一瞬セピア色になった世界は何だったんだろうか。
その中ではっきり見えた朱い色。

そういや、物語の重要なキーワードには全て「赤い色」が使われているという映画があったな。
『シックス・センス』だったか。
さっきのセピア色のぼやっとした世界の中で、浮かび上がった朱い色がまさにそれだ。
まさか、俺に、シックスセンス=第六感まで?
・・・・ぶっ!はははは・・・。
我ながらおかしすぎて、腹から笑いがこみあげてきて、タクシーの運転手に悟られないように、思わず手で口を塞ぐ。
口元に手をやると、ハチミツの匂いがした。
まだ甘い。


甘い匂いは苦手だ。
甘いという言葉自体が苦手だ。
琴子の甘いハンドクリームの匂いも。琴子の甘すぎるコーヒーの味も。
琴子に甘い言葉をかける俺も。琴子の甘い朱い唇も。
・・・・・苦手なはずだった・・・。


でも今この甘いものが俺をくらくらさせ、酔わせる。
五感がどんどん研ぎ澄まされる。
そしてそれを超えた感覚まで?
・・・・・もう笑うしかない。
琴子が俺の知らなかった世界を見せてくれる。連れてってくれる。
琴子が見たことのない俺を見せてくれる。そして戸惑わせる。



琴子と俺。
相容れないものの混在。
それが結婚なのかもしれない。




それって本当に、俺にとって、革命だな――――――。





(この話は「イタKiss何でも書いてみよう!」に投稿させていただきました。)


**********

「エロ吟遊詩人直樹」-------。
もう、それにつきます(>_<)
ちなみに、私は普段ポエマーではありません。
ポエムなんてものは書いたこともありません。
でも、こんな作品書いちゃいました・・・。





COMMENT

お話の、内容とは、関係ないけど?新婚の、入江クンと、琴子の、二人だけの暮らし、著とみたいな、リクエストお願いします。
by なおたん
2014/03/18(火) 09:13 [Edit
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
by
2014/03/22(土) 09:42 [Edit
コメントありがとうございます

なおたんさま

お返事遅くなってごめんなさい。
コメント二つありがとうございます。このお話可愛い、好きと言ってくださってうれしいです。
新婚の二人暮らしのイリコトもいいですね!
しかし、なかなか更新ができない状態なので、リクエストにはお答えできないと思います。またいつか・・・書くことがあるかも?くらいでお許し下さい(^^;)
by 千夜夢
2014/03/24(月) 15:06 [Edit

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Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
ここは、私の超個人的な妄想話置き場です。

原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。
私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
また、ブログ内の全ての文章・いただきものを含む画像等の無断転載・転用を固くお断りします。

まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
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