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2010.04.03 *Sat*

―9分― (中)


琴子の絶叫が車内に響き渡る。
そしてまるで幽霊でも見たかのように琴子は目をまん丸に広げ、指をぶるぶると震わせながら、その声の主に向かって指を大きく指す。

「ちょっとこっち来いよ」

直樹が琴子の腕をとって、出入り口の方に誘う。

「な、な、な、なんで・・・なんで、入江くんが・・・」

全くそこに直樹がいる意味さえわからない琴子は、呆然と立ち尽くして、直樹に腕をひっぱられても、なかなか動こうとしない。

「とにかく!ちょっとここから出ろよ!」

4号車の乗客は全員といっていいほど、琴子の絶叫と同時にこの二人の様子を見ている。
琴子は興奮して気づいていないようだが、直樹はこの乗客たちの視線を痛いほど感じている。

(ったく。こいつと居たら、こんな注目浴びてばっかだ・・・)


直樹は少し不機嫌そうな顔をして、琴子のボストンバッグを持ち、琴子の背中をポンと押す。
思わず一歩踏み出した琴子の腕を掴み、直樹は乗客室の出入り口へと琴子を連れて行く。

4号車の乗客室を外に出て、少し広い空間で、直樹は急に立ち止まった。
琴子も直樹に腕をひっぱられているから、それに合わせて、ドンと直樹の胸に顔をぶつけて止まった。

「い、痛っ・・・」

琴子は直樹の胸にぶつけた自分の鼻をつまんで、直樹を見上げる。


「おまえ、何時何分の新幹線のチケット買ったんだよ」

「へ?」

「何時の新幹線に乗るつもりだったんだよ!?」

「何時って・・・、何言ってるの?新神戸発8時22分のこの新幹線だよ」

琴子がチケットをひらひらとさせながら直樹に答えると、直樹は琴子の新幹線のチケットをパッと奪い取り、琴子の前にしっかりと見せる。

「今は夜の8時だ!夜の8時ってことは、チケットには20時になってるはずだ。よく見ろ!おまえのチケットは8時22分!つまりおまえのこのチケットは、今朝の8時の指定席ってことだ!」

「ええ!?」

琴子は直樹の持っているチケットをもう一度しっかりと見る。
確かに指定席には「8時22分」と記載がある。


「これ・・・神戸に行けるってわかって・・・もう何週間も前に買ったんだよ~~~~!!?」

「バカか。いくら早く買っても間違ってたら意味ねーだろっ!なぜ今の今まで気づかないんだ!!」

しかも新神戸駅で駅員に向かって、長々と自分の話をしていた琴子。
そのため、駅員もしっかり琴子のチケットを見ることなく、改札口の前を通り過ぎてしまっていたんだろうと、直樹は今さらながらにあの時の光景を思い出す。


「じゃ、じゃあ・・・この朝の新幹線はもう乗り過ごしちゃったってことで、あたしは、あたしはどうなるの?」

琴子が少し顔を青くして、不安そうに直樹に聞く。

「車掌に言えば、空いてれば指定席も差額払えば取れるだろう。自由席に移るならそのままで問題ないし」

「あ、あ、そうなんだ・・・」

琴子はちょっとホッとして、ため息をついた。
そして今度は、ふと思いだしたかのように、顔をあげて大きな声でまた叫ぶ。


「あ!!い、い、入江くん、入江くんは、何??もしかして、無賃乗車ーーーっ!?」

「声がでかいだろっ!!」

「んぐぐっ!」

直樹は思わず琴子の口に手をやり、大きな声を出す琴子を食い止めた。

「おれは後で精算すればいいことだから、でかい声出すなよ!」

(ったく!夫に向かって、無賃乗車とはなんだ!?)


「んぐぐ」

「おまえのチケットが乗る時に見えたから、多分おまえのことだから、絶対人ともめると思って、思わず乗ってしまったんだろ」

「んぐぐ・・・ど、ど、どうするの入江くん・・・このまま東京まで帰っちゃうの?」

やっと直樹から手を離されて、琴子は直樹を見上げて話かける。


「おれは次の新大阪で降りる。今からなら十分在来線で帰ることできるからな」

「え!そうなの!じゃ、じゃあ、またもう少し一緒にいられるのね~~~!!きゃあーーーっ!!」

そう言って、琴子は直樹の首に手を巻き付けて、抱きついた。


「こ、こら!やめろ!こんなところで、離れろよ!」

直樹は周りをきょろきょろと見回し、首に回された琴子の手をほどいた。

「ねえ、あと何時間?あと何時間入江くんと一緒に居られるの?」

琴子は目を潤ませて、思いがけずできた時間に幸せを感じながら、さらに直樹に詰め寄って問いかける。


「新神戸から新大阪までは、だいたい15分弱くらいで、もう数分は過ぎたからな・・・」

「ええ!?そ、そんなに近いの??」

「ああ。もうあと少しだな」

「そんな~~・・・・・」

琴子はがっくりと肩を落として、直樹の顔からも視線を落とした。


「なんだよ。ふっ。もう一回別れたんだから、もうふんぎりはついていただろ」

直樹が少し呆れながらも、琴子のころころ変わる表情に口元を綻ばせて言う。

「だって~・・・。ラッキーなことにもう一度会えたかと思ったら、もうお別れなんだもん・・・」

琴子のぷーっと膨らませた頬を見ると、直樹は思わずそこに手を伸ばしてしまう。

「そうやってがっくりして、小言言いながら新大阪着くまで時間潰すんだ?」

琴子のぷにぷにとした頬をからかうように、指で何度か弾いて弄びながら直樹は話す。


「そ、そうよね!それはすごくもったいないわ!!」

急に柔らかい頬が、きゅっと引き締まったかと思うと、琴子はきっと目つきを変え、直樹の胸に手をやり、しっかりと直樹の顔を見上げる。
そして自分の頬にある直樹の手を取り、ぎゅっと引き寄せ、琴子はぐいんと少し背伸びをして、直樹の顔に自分の顔を近づけた。


「な、なんだよ」

「あと少し、しっかりとお互いの顔を焼き付けておきましょう。もう瞬きするのももったいないわ!!」

「やめろよ・・・そんな血走った目で見られるなんて、気持ちわりーだろ」

直樹は顔を横にやり、視線を外した。

「もう!あと何分なの!?あと何分一緒に居られるの?あと少しで、またどれだけあたしたち会えないと思うの!?」

琴子は直樹の胸ぐらを掴んで揺らしながら、視線をずらした直樹の顔の方向に自分の顔を持っていって、なんとか直樹と視線を合わせようとする。

「・・・・・」

「ねえ、あと何分!?入江くん、ちゃんとこっち向いてよ!」

直樹は顔を動かさず、目線だけを自分の左腕に落とし、自分の腕時計を見る。


「あと、9分だな」

「9分!!」


琴子は声を裏返して、悲痛な叫びをあげる。
直樹は何か思いついたように周りを見回し、ふとある場所に目を留める。
そして、琴子の荷物を手に取り、琴子の腕をひっぱった。


「来いよ!」

「え、え、ど、どこに・・・」

直樹に腕をひっぱられ、もつれるように琴子は歩き出す。


いきなりバンッと琴子の荷物が床に放り出されるように置かれる。
そしてシャーーッと音をたてて、小さなカーテンが直樹によって閉められた。
急に閉鎖的な空気が流れ、目の前の鏡に直樹と琴子が映り出される。
即座に作り出された二人のプライベートルーム。


そこは新幹線の中の洗面所―――。



「ここならいいぞ。琴子の好きなようにしろよ」

直樹が口唇の片端を少し斜めにあげ、自分の身体を傾けて、琴子の顔を下から覗き込みながら囁く。


「・・・す、好きなようにって・・・」

「さあ、あと9分。琴子、どうやって過ごす?」



**********

ぴくもんさんとのリレー企画を創作する間に、この「9分」を繋ぎとしてUPしていけばいいな~と思ってたのですが、これをUPしてもまだリレー話が完成するには時間がかかるような気がします・・・。
ちょっと多忙と諸々ありまして・・・。

ぴくもんさんの続きを早く読みたい方多いと思うのですが、もうしばらく、いやかなり・・・お待ちさせてしまうかもしれません(>_<)。
すみませんが、よろしくお願い致します・・・。


COMMENT

拍手コメントありがとうございます(*^_^*)
>りきまるさま

おはようございます。温かいお言葉、ありがとうございます(*^_^*)忙しい一つに「絶賛春休み中」ってのもありまして・・・(^^;)それはもうすぐペースを元に戻せそうです。思いがけず直樹にまた会えた琴子のうれしさを感じてもらえて、うれしいです(^^)/この離れてた時期は、ちょっとのことでも「幸せ」を感じた二人かもしれませんよね。妄想働きます(^^)

>繭さま

おはようございます。ここまでで、そんなに満足してもらえるなんて・・・いやもう、私のほうこそ感激ですo(^◇^)o 繭さん、ラブコメお好みですよね ( ̄m ̄*) 直樹のこの行動って、確かに「愛」ですよね(言われて気づく・・・汗)。あんな冷静な直樹がこんな大胆な行動に出るのも、やはり相手が愛する妻ですもんね。ってまた他人事のようなレスですみません(^^;)いつも繭さんには、気づかされること多いです。「下」は、何かプツーンと切れちゃった直樹ということで、受け入れてもらえるか心配ですが・・・ひきつづきよろしくお願いします♪

>ぴくもんさま

おはようございます。楽しんでもらってますか。よかったです(*^_^*)かなり前にイメージしていた話なんですが、本当にまとめづらくって・・・書いているうちにどんどん難しくなってきました(>_<)そしてぴくもんさんの問いかけですが「はい。○態ですね」 ( ̄m ̄*) うそです、イタキスファンなら、そういうことって絶対考えますよね!(笑)そんなことあるわけないじゃん~と思いつつ、なぜか胸熱くなる感じ・・・同じです(^m^ )ラストに迷っていますが・・・なんとか仕上げますぅ~。

>藤夏さま

おはようございます。藤夏さんも体験されてましたか!?(笑)新神戸と新大阪って本当に近いですよね。そして東京と新横浜もやたらと近いですよね!
カーテン・・・そうです、短いです。頭部分しか隠れないと思います ( ̄m ̄*) 最近新幹線乗ってないから、ちょっと調べてみたら、どうやらまだ短いみたいですね(っていつか長くなるのか?笑)「下」ではそのあたりも着目してもらえたらと思います。ラスト・・・いま迷っています(@_@;)リレー作品は、実はかなりできました!(予想外!)もうあと少し、見直ししていきたいと思います♪
by chan-BB
2010/04/06(火) 07:33 [Edit

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Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
ここは、私の超個人的な妄想話置き場です。

原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。
私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
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まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
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