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『春』  ~ある日曜日の風景~ 2/2

2010.03.15 *Mon*

「『春』  ~とある日曜日の風景~ 1/2」の続きです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―――――午後3時。



「ひゃーーー、寒い!!」

スポーツショップを出ると、いっそう風が強くなっていた。
このスポーツショップの横には大きな河があり、そこから流れてくる風なのかもしれない。

「おまえ、それ、もしかして素足?」

風でめくりあがる、小花柄のポリエステルのワンピースを押さえている琴子を見て、直樹が少し眉をひそめて聞く。

「そ、そうよ!ブーツ履いてるから大丈夫だと思ったけど、ちょっとまだ寒かったみたい・・・」
「なんでそんな、薄着・・・」
「い、い、いいでしょ!着たかったんだから!!」


そう言う直樹も少し寒いのか、薄手のブルゾンのポケットに両手を入れて歩いている。
二人そろって、バス停を目指して歩く。
病院に向かうバスも、自宅に向かうバスも、バスの路線は違うものの、バス停は同じところだ。
バス停は河の堤防沿いの道路にあり、直樹と琴子はスポーツショップの横の階段を上がって、その堤防沿いの道路にあがった。


高い堤防沿いの道路にあがると、さらに一段と強い風が吹く。
そして河の土手に野球のグラウンドがあり、少年野球のチームが試合をしているのがよくわかる。
子供たちの歓声と、コーチや親たちの応援する声が、この強い風に乗って仕切りに聞こえてくる。


「入江くん、バスどっちが早く来るだろうね」
直樹が聞こえているであろう野球の試合の声の方向を、全く見ないことに気づいた琴子が、話題を提供するように、直樹にうかがう。

「おれ、歩いて帰るから」
「ええ!?歩くの?1時間以上・・・いや、2時間くらいかかるよ!」
「かまわない」
「・・・そうなんだ・・・」
直樹はやはり土手の方には顔を向けないで、ただ真っ直ぐ歩いている。


「あ!つくし!」

土手の傾斜の部分に、つくしがいくつか生えているのに、琴子が気づく。

「見て!入江くん!つくし!つくしだよ!」

琴子はつくしを二本摘んで、直樹の目の前にかざす。
いきなり目の前に突きつけられて、直樹は目を寄せて、少し身体を後ろに反らしてびっくりする。


「おまえ・・・、せっかく芽吹いたものを・・・。摘んじゃうんだな」
「あっ!!」

思わず手の中のつくしを見る琴子。

「どうしよう・・・、可哀想なことしちゃった・・・」
琴子はしゃがんでつくしをもとの茎のハカマの部分に入れ込もうとする。

「バカか!もうくっつくわけねーだろっ!」
「でも」

「もう元に戻すことは、できねーんだよっ!!」

少し語気を荒げる直樹に、琴子は思わず動作を止めた・・・。


「ごめん・・・」

そうつぶやくと、琴子はつくしを掴んだまま立ち上がった。
自分のせいで、また直樹が嫌な思いをしたのではないだろうかと、少し心が痛んだ。
しかし直樹はそれ以上はもう何も言わず、また冷静な顔をして真っ直ぐ歩き出した。

「い、入江くん!あたしのバスが来るまで、一緒にバス停で付き合って!」

なんとなく、まだ直樹を放したくない琴子は、直樹の腕を掴んで、少し強引にバス停のベンチに座らせる。
バス停には、誰もおらず、二人だけだった。
ベンチに座って、少し沈黙が流れると、また土手の方から大きな歓声が聞こえてくる。


まわれ、まわれーーーー
なげろ、なげろーーーー


大人と子供の声が一緒になって、興奮しているのが伝わる。
直樹は、ポケットに手を入れたまま、ただベンチに座っている。
琴子と視線を合わせそうもない直樹を、琴子はじっと見ている。


「入江くん」

急に発せられた言葉に、直樹も無意識に顔を少し琴子の方に向ける。


ちゅっ


少し音をたてて、琴子は直樹の唇にキスをした。

「なんだ?」

突然のことに、目を見開いて直樹が言う。


「へへ・・・誰も周りにいないし、ちょっとね」
琴子が舌を出して、少し照れながら笑う。
一瞬戸惑った直樹だが、ふっと顔を緩めて、いつものように企んだような目をして琴子に言う。


「よくわかんなかったなあ。もう一度してほしいなあ」

わざと琴子をからかうように発する言葉。
いつもなら、「もう!」って琴子が照れるのをおかしそうに直樹が見ているという情景が繰り広げられるが、今日の琴子は違った。


「いいよ。目、瞑ってくれたら」

思わぬ反応に、直樹の目が一瞬まばたきを忘れて、琴子を凝視する。
琴子も真っ直ぐに直樹に視線を合わせている。

それをしばらく見て、直樹はゆっくりと目を瞑った。
目を瞑った直樹の端正な顔を確認するように、琴子は手を伸ばして、ゆっくりとその顔を包み込むように小さな手を添える。
包み込んだ琴子の手はとても冷たく、直樹はその手が触れた瞬間、顔を強ばらせたが、すぐに温かい柔らかい琴子の唇が重ねられてきて、その冷たさもすぐに気にならなくなった。


ゆっくりと琴子の唇が離れると同時に、直樹の頬を包み込んでいた手も離れていく。


「琴子にしたら、えらく濃厚なキスだったよな・・・」
「ま、まあね・・・/////」
「なんで?」
まるで核心をついてくるかのように、直樹が真っ直ぐに琴子の瞳の中を覗き込む。


「まあ、今日は、しゅ、出家大サービスってやつかなっ!?」
「・・・しゅ、出家?」
「そ、そう!出家大サービス!!」
琴子が元気よく、身体を弾ませて答える。


「ぶぶっ!!」
直樹が大きく吹き出す。

「な、なによ?」
「しゅ、出家大サービスって・・・!それ・・・、どういう意味?ぶぶっ」
直樹が笑いを堪え切れずに、途切れ途切れに琴子に問う。

「し、知らないの?入江くんが??それは・・・、出家する前の大サービスって意味だよ」
「ぶわははははははははは!!!」
「な、な、なによ!!??////」
「さ、さ、さすが、F組!!しゅ、出家って、誰が?出家大サービス!!ぶわはははははは!」


直樹が珍しく、信じられないくらいの大声を張り上げて笑うので、琴子は思わず周りを見回した。
幸い誰もいない。


「あはははははははは!!」

直樹はとうとうポケットから手を出して、お腹をかかえてさらにひどく笑い続ける。


「な、な、な、なによぉ~~~・・・・///」

自分が多分おかしなことを言って笑われているのだという自覚はあるが、琴子には、なぜにこんなに笑われなくてはいけないのかがわからない。


「・・・ひどい・・・、そんなに笑わなくても・・・」
「あははははははは。もう、もう、涙がでてきた」
「い、入江くんこそ!!」
「な、なんだよ・・・」
直樹は目尻を手で擦って、涙を拭きながら言う。


「く、唇に、口紅ついてるから!!そんなの帰り道で人に見られたら、笑われちゃうから」
ちょっと反撃してやったと言うように、琴子が得意げに顎を突き出して直樹に言う。

「そういうおまえこそ」
「な、なによ」
「は、鼻の下や、顎のところにまで口紅ついてて、ピ、ピエロみたいになってんぞ!!ぶっ!ぶははははははははは!!」


またお腹をかかえて直樹が笑い出し、琴子はバッグの中から化粧道具を出して、コンパクトで顔を確認する。


「!!!」

本当に鼻の下と顎にべったりと口紅、というより、直樹とデートができると思って張り切って塗ってきたグロスがべっちゃりとついていた。
はりきってしてきたおしゃれが、仇となる皮肉な結果だ。


琴子のコンパクトを覗き込んで百面相のように変わる表情を見つめながら、直樹を少しずつ呼吸を整えていく。
笑いすぎて痙攣をおこしそうな腹筋。
目尻から流れる涙。
そして自分の唇についている琴子の口紅とグロスを、手で拭き取る。

ひとつずつそれらを対処して、やっと落ち着いた頃、バスがやってくるのが見えた。


「琴子、バス来たぞ」
「ええ!?」
琴子は慌てて、化粧ポーチをバッグに戻す。


バスが止まり、降りる人もおらず、乗る者は琴子だけだったので、琴子は慌ててバスに乗り込もうとする。


「あ、入江くんこれ!」

琴子がさっき摘んだつくしを直樹に強引に渡す。

「なんだよ!こんなものいらねーよ!」

思わず突き出されて掴んでしまったものの、直樹は自分の手の中にあるつくしを見て叫ぶ。


「入江くん、また明日!!」

直樹の抗議は通ることなく、一瞬琴子の笑顔が見えたかと思ったとたん、義務的にバスのドアが閉まってしまった。



バスの車内の車窓から、あっという間に小さくなっていく直樹を琴子が目で追う。
さっきまで大笑いしていた直樹とは違い、しっかりといつものように落ち着いた表情でしばらく琴子のバスを見送っているのがわかる。



―入江くん。
―入江くんを必要としてる人がこの世の中にたくさんいるんだよ。
―もちろん、あたしもその中の一人。
―そのことを絶対に忘れないでね!

―入江くんに、ボールを投げつける人なんていないけど、もしそんなことがあったら、あたしが必ず全力で盾になってあげるから!!

―でも、さっきは笑ってくれて、本当によかった・・・。
―入江くんが喜ぶなら、入江くんが元気になるなら・・・、あたしはいつでも喜んでピエロになるからね!


琴子は小さくなる直樹を見つめながら、心の中でどうかこの気持ちが直樹に届きますようにと、きつく念じた。



琴子の乗ったバスが小さくなり、直樹はまたポケットに手を入れて、道路を歩き始めた。
土手から聞こえる野球の試合の歓声に、初めて気づいたように反応して、そしてそれを見る。
泥まみれになった子供のユニフォーム。
必死で応援する仲間。親。コーチ。
どれもが活き活きとしていて、「生」を感じさせる。


―入江くん、また明日―


さっきの琴子の別れの言葉を思い出し、「明日」があること、「明日」にはまた患者が待っていることを思い出す。
ただ、歩くしかない。
そういう思いで、直樹は長い家路を歩き出す。


口紅がべったりついた琴子のピエロのような顔を思い浮かべ、思わず「ぷっ」とまた思い出し笑いをする。
琴子は本当にピエロみたいだ。
さんざん笑わせて、そして泣かせて。
何かを一掃してくれる。
そして常に相手の気持ちに添うことができるのは天性のものか。
琴子と関わったあとには、いつも「希望」が見える。

ずっと天才天才と言われて、他人と何か一線を置いていた、今よりももっと若い頃の自分。
一人で生きていけると本気で思っていた。
でも今はそれを全く思わない。
一人で生きたいとも思わない。


―おれは弱い人間になったのか?


そう自問する自分に、すぐに回答はでる。
そして、思わず口元が綻びる。


―いや、おれはただ、いろんなことを知ってしまったということだけだ。





―――――午後5時。



「ただいま」

琴子もおらず、家族の気配もまだなかったが、とりあえず直樹は声に出してあいさつをする。

すぐに台所に向かい、小さいコップに水を入れ、そこにさっき琴子が無理矢理押しつけたつくしを入れる。
すっかりくたっと曲がったつくしの背筋が、また伸びるかはわからない。
でも、とりあえず対処してみたいと直樹は思った。

そしてダイニングのイスに座り、すぐに何か変化があるわけないのに、そのつくしをしばらく眺める。


久しぶりに長い距離を歩いて、少し足がだるくなっているのを感じる。


でも―――。

まだまだ、歩くことができると、直樹は実感した。




**********

自分でも不思議な話(「変な話」ともいう(^^;))を書いちゃったなーと思います。
なぜなら、かなりいろんなものを詰め込んだ割には、あまりに抑揚なく淡々と話が進んだので。
今回は琴子の直樹に与える影響力を、とりあえずテーマ(?)にしてみました。

説明やセリフではなく、さりげない描写から、もっと二人の愛情が伝わる話を描けるようにしていきたいです(^_^;)←課題


COMMENT

拍手コメントありがとうございます(*^_^*)
>まあちさま

こちらこそありがとうございます。話が心にしみこんでくださったなんて、本当にうれしいです。そして自分に置き換えて、いろいろ思ってもらったこと。ちょっと重たい話でしたけど、書いてよかったんだよね?とうれしくなりました(^^)

>りきまるさま

こんにちは。またお会いできて、私もすごくうれしいです(o^ ^o) / 喜んでいただいて、本当にありがとうございます。琴子は策略がないところが魅力であり、もうその自然な存在自体が直樹にとって、癒しであり、励ましであるんでしょうね。・・・って、それがうまく私の話にでてるかどうかは別として(^^;)、りきまるさんの琴子論には、完全に私も同意致します!(笑)こちらこそ、これからもどうぞ末永く(笑)よろしくお願い致します。

>繭さま

繭さんの心に沁みる感想に、私はどうやって返答したらいいのかと本当に考えました。あとがきに書いた「たくさんのものをつめこんだ」ものを過不足なく拾っていただき、もうそれだけで感無量です。琴子の自然で計算のない愛情は、原作の一番の魅力かもしれません。その愛情に気づいている、天才で非の打ち所のない直樹がもう琴子にずっきゅん状態のところに、私たち読者はすっかり落ちてしまっているのでしょうね(^^;)いつも鋭い分析、ありがとうございます。

>藤夏さま

藤夏さんの感想に、うるうるっと本当にきてしまいました(T_T)そこまで深く読んでいただいて、いや、私が描いた世界よりもっと大きく捉えてもらって、本当にもったいないやら、ありがたいやら・・・むしろこの感想で私の方が、いろんなことをまた気づかせてもらいました。私の書く話は原作のスキマにはならず、むしろいつも捏造に近いですが(^^;)それでも、何か心に留まっていただけたら、本当にうれしいです。「また明日」は自分で書いていながらなんですけど、凹んだ時に自分でも言い聞かせたいです(笑)。こちらこそ、素敵な感想ありがとうございました。
by chan-BB
2010/03/16(火) 18:11 [Edit
拍手コメントありがとうございます

無記名さま(6/18 15:58)

この話も好んでくださってありがとうございます♪私も久しぶりにこの話読み直して「こんなの書いてたんだ!」と思い出しちゃいました(*^_^*)琴子ならば、入江くんの「盾」になりますよね!!私もその思いはずっと変わらないと思います。
コメントありがとうございました(^^)/
by chan-BB
2011/06/18(土) 22:08 [Edit
拍手コメントありがとうございます

もかチョコさま

過去作探訪ありがとうございます♪
貴重なお休みの日に、お話読んでいただいて本当に感激です。
ぜひぜひお気遣いなく、お好きな時に、お好きなように読んでいただけたら幸いです♪でもこうして反応してくださると、とても嬉しかったりします(*^m^*) どうぞいつでも遊びに来てやって下さい~♪
by chan-BB
2012/03/22(木) 16:41 [Edit
入江君は琴子ちゃんと、出会ったことで、いろんな感情をしることができた、天才だから、それまでの、感性、感情を、努力琴子ちゃんを、とうして、しることができたんだね。
by なおちゃん
2015/03/18(水) 19:48 [Edit
コメントありがとうございます

なおちゃんさま

こちらにもありがとうございます。本当に入江くんは、琴子ちゃんを通していろいろな感情を知ることができたと私も思います。そしてそういう入江くんと琴子ちゃんのカップルが、たまらなく愛しくてたまらないです(*^_^*)
by 千夜夢
2015/03/23(月) 13:15 [Edit

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千夜夢

Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
ここは、私の超個人的な妄想話置き場です。

原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。
私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
また、ブログ内の全ての文章・いただきものを含む画像等の無断転載・転用を固くお断りします。

まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
よろしくお願いします☆

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