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2010.01.19 *Tue*

ソーダー水


辛気くさいものを衝動的に書いてしまいました・・・。


暑い――――。

こんな暑い日に俺はバカみたいに、焦げ付いたアスファルトの上を延々と歩いている。
先週清里から帰るおふくろに、この日は実家に帰るようにしつこく催促され、仕方なしに今、アスファルトの続く住宅街を実家へと向かっている。
俺は三日前にバイトを終え、清里から戻ったばかりで、この東京の暑さに辟易としている。
清里の夏でも冷気を感じる空気と違い、このあたりの空気はまるで煮え切った鍋の中にいるみたいだ。


「入江く~~~ん」

聞き慣れた声が俺の背後から聞こえる。
多分琴子だと声でわかり、無意識に後ろを振り返るが、照りつける太陽をバックにして立っている琴子であろう人物の顔が、まぶしすぎて確認できない。

「まぶしいよね」

さすがに目を細めてあからさまに光線を嫌がる俺を察してか、太陽と反対側の俺の前に回り込んでその人物が覗き込んでくる。
茶色い髪と白い肌が焦げ付くアスファルトの上にかげろうのように浮かびあがり、声の主が琴子だと今しっかり確信する。

「よかったあ、おばさん、入江くんがちゃんと来てくれるかちょっと心配してたんだよ」
「どうせ、つまんない用なんだろ」
「おばさんたちだって、入江くんにたまには帰ってきてほしいのよ。だって入江くん、住んでるところも教えないんだもん」
「どうせ連絡しなくても、清里までやってきたくらいだから、俺の情報なんてツーツーなんだろが」
「うっ・・・そ、そんなことはないけど・・・」

実家を出ても、琴子と距離が離れたような気が全くしない。
今、この熱いアスファルトの上で、そして先週は涼しい避暑地で、そしてもうすぐ始まる大学でもきっと顔を合わすだろう。
もう、生活の一部になってしまっているのか、琴子の顔を見ても「またか」っていう気がしなくなってきている。


「入江くん、すごい汗だね」

俺を覗き込む琴子の顔は、少し汗ばんでいるものの、俺と違ってまだ涼しげな印象を持つ。

「ね、あたしおごるから、そこでちょっと冷たいもの飲んで行こう!ね!」

ふいに琴子に手首を掴まれて、その少し汗ばんだ手に余計に不快な暑さを感じ、思わずひどく振り切ってしまう。
住宅街の間に、個人宅を改装したような小さなカフェ。
そこを指さして、琴子が振り切ったにもかかわらず、懲りずにもう一回俺の手首を掴んで言う。

「飲んだらすぐ帰ったらいいから。暑いのもちょっとマシになるよ。飲んで行こう!おごるから」

何度もおごるおごると言うから、まるで俺がケチって入るのを拒んでいると思われるのも癪に触る。
仕方ない、入ってやってもいいか。
そんなひどく傲慢な顔をして上から琴子を見下ろすと、琴子がそれに気づいたのか、少しニコッと笑って俺を見上げる。
二度目に掴まれた手首の、琴子の少し汗ばんだ小さな手の感触にむずかゆい気持ちになりながら、俺は琴子にひっぱられて店内に入って行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おまたせしました」

テーブルの上に注文したものが置かれる。

「ねえ・・・、入江くん・・・やっぱそれって嫌みよね?」
琴子が顔をしかめて、下から俺を見上げるように言う。
「あたしが、無理矢理ここに連れてきたから、ちょっと怒ってるの?」
「べつに」

十分冷房の効いたこの小さなカフェ。
入ったとたんに「涼」はとれた。
だから、俺はホットコーヒー。
わざとじゃないが、今ホットコーヒーを飲んでいる俺の顔はきっと涼しげに見えるはずだ。

「入江くんが汗だくだったから、冷たいものでもと思って入ったのに・・・、そんなまた汗かくような・・・」

ブツブツ言いながら、琴子は自分の注文したソーダ―水をストローで吸い上げる。
緑色のソーダー水。
琴子が吸い上げると、グラスの下の方にある緑色の液体が一瞬グラスの中を舞うように踊り上がり、気泡が下から上へとブクブクと上がっていっては、かすかにシュワーという音をたてている。
その緑色の液体の中の気泡をぼんやり見つめながら、その気泡のキラキラとした向こうに淡いオレンジ色の服を着た琴子を目でとらえる。

本当はわかっていた。
さっき太陽がまぶしいだけで、琴子を初め確認できなかったわけではない。
琴子のこの淡いオレンジ色のサマードレスが、俺の目にはすごくまぶしかった。

あの、清里の木陰で眠っていた琴子が着ていた服――――。

琴子の前に置かれたソーダー水の緑色が、あの清里の草原の色を連想させる。
その緑の草原の後ろに、オレンジ色のサマードレスを着た琴子。
あの日の再現か―。
ソーダ―水の気泡がブクブクとあがるのが、まるで夢の中にいるようで、今カフェの涼しい空気の中、あの緑いっぱいの草原の清里に戻ったのかというような錯覚にとらわれる。


俺が寡黙に嫌がらせのように、ホットコーヒーを飲んでいるからか、琴子がしきりなしに、場をとりつくろうとして話をしてくる。
清里でのおふくろがどうだったとか、裕樹とチビがどうしただとか、家族の話をしているのはわかるが、たいして返事をするほどの内容でもない。

「でも、せっかく避暑地ってところに行ったのに、入江くんと二人で思い出作れなかったのがちょっと残念だったなあ・・・」
さんざん清里の話をした挙げ句、俺に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟いてはひとつため息をつき、ソーダー水を飲む琴子。

本当はすごいことあったんだけどな。
それは絶対おまえには言わないけど。
ちょっと笑いそうになる自分を、コーヒーを飲むことでごまかして、俺は心の中で舌を出して、琴子を嘲笑っている。

「ね!あたしが帰ったあとも、あのお客の女!また入江くんに近づいてこなかった?大丈夫だった?」
「近づいてきたって、かんけーねーし」
わざと落ち着いた口調で、でも意味ありげにちょっと口元を緩めて話す。
「ち、近づいてきたの!?それって、あの赤い口紅の女!?」
必死でむきになる琴子の表情を、ついつい目を細めて見てしまう。

そういう琴子は、今気づいたが、服と合わせてオレンジ色の唇をしている。
清里でも、オレンジ色の口紅をしてたっけ・・・?
ちょっと思い出して見るが、意外にもあまりそのことは思い出せない。
何か文句を言っている小刻みによく動く琴子の唇を、また緑のソーダー水の向こうに気泡越しにながめる。

ブクブクと、音が聞こえてきそうな気泡。
ブツブツと、呟く琴子のオレンジ色の唇。


俺って―。
あの唇の感触知ってるんだよな・・・。


「入江くん!だから、それからどうなったのよ?どうやって断ったの?それとも」
どうやらまださっきからペンションでの女の話が続いているらしい。
もうそんな話はどうでもいい。

「おまえ、それ何か買い物の途中じゃないのか?」
琴子の持っているスーパーのビニール袋を指さす。
そしてその袋から、汗のように水がしたたっているのがわかる。
「え?あ、これ・・・ああああ!」
いきなりガタンとイスを引いて、琴子が勢いよく立ち上がる。

「お、お肉!おばさんにバーべーキューのお肉の追加を頼まれてたの!早く帰らなくちゃ!」
「バ、バーベキュー!??」
「あ!!」
琴子がしまったという顔で口を覆う。

「このくそ暑いのに、バーべーキューするために俺は家に呼ばれたのか!?」
「あわわ・・・、いやそれだけでもないみたいで・・・たまには家族団らんもいいかなって、おばさんが・・・」
「清里まで家族で来ておきながら、まだ団らんかよ!」
「と、と、とにかく、お肉腐っちゃう。早く帰ろう」

スーパーの袋と小さなバックを掴んで琴子が慌てて、外に出ようとする。

「おまえ、まだ残ってるぞ」
まだ半分くらいしか飲んでない琴子のソーダー水を指さして、琴子を呼び止める。
「大丈夫!ここはあたしのおごりだから!」
そう言って、止まることなく、伝票を取って入口の方に慌てて向かう琴子。

話が全然かみ合ってねーんだけど・・・。

まだ気泡をたてて新鮮そうなソーダー水が、ブクブクと音をたてているような気がする。
思わずグラスを持ち上げて眺める。
そして一瞬躊躇する。

ストローについたオレンジ色の口紅。
わざと周りに少し聞こえるくらいの声で、なぜか理由らしきものを呟く俺。

「もったいねーな」

そして琴子の残したソーダー水をストローでいっきに飲み干す。
緑の液体がぐらぐらっと回転しながらストローに吸収されていき、最後はゴボゴボっとグラスの中で音をたてて、甘い緑の液体が俺の口の中いっぱいに広がった。。

飲み干して、なんとなくバツの悪いような変な気分で、少し周りを見回す。
住宅街だけあって、昼下がりの今は主婦らしい女性の姿が目立つのに今更気づく。

ストローを抜いて飲めばいいものを・・・。
そんな声が聞こえてきそうな気がして、それを払拭するように口元を腕で拭った。

「入江くん~、もうお勘定終わったよ~はやく~~」
入口から琴子の大きな声がして、ちょっと唇を噛んでその声の方に向かう。


「かわいいカップルね」

後ろからそんな声が聞こえてきて、一瞬動作が止まりそうになる衝動にかられながら、俺はまた唇を強く噛んだ――――。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「じゃ、俺、帰るから」
カフェを出て、琴子の顔を見ることもなく、さっき来たばかりの道を戻ろうとする。

「ええっ!?どうして?おばさんたちみんな待ってるよ!」
琴子がまた俺の手首を掴んで制止する。
さっきとは違い冷気を帯びた琴子の指がひんやりとして、一瞬俺の腕がぴくっと意志とは別に動いた。
「こんな暑い日に、バーべーキューなんてやってられるかよ!」
そう言って、手首を大きく振って、琴子の指を自分から放つ。

「お肉もたくさん買ったのにぃ・・・」
「そんな汗かいた肉なんて食いたかねーよ」
「大丈夫だよ」
熱いアスファルトの上で琴子が地団駄踏みながら、少し口を尖らせて上目遣いに俺を見る。

「じゃあな!」
その目を見たら負けそうになる。
もう絶対振り返ってはいけないと自分で決め、我が道を進み出す。
「もう・・・・」
無理だと思ったのか、小さなつぶやきが聞こえて、後ろからしばらく視線を感じていたが、それ以上琴子も追いかけてこなかった。
きっと俺の背中が、絶対拒否を見せていたからだと思う。


暑い!
照りつける太陽。
足下から湯気があがるようなアスファルト。
さっき涼んだはずの身体が、また再び熱を持って俺をむしゃくしゃと不快にさせる。
この東京の暑さが俺をむかつかせる。


でもわかっている。
一番むかつくのは、琴子を「俺の女」みたいに扱った自分だ――――。

自分だけが知っている唇に優越感を感じ、ペンションの女に嫉妬する琴子をうれしそうにながめ、そして琴子の残したソーダー水を飲み干した。
そして当たり前のように勘定までさせた琴子は、まるで俺の女のようだ・・・・。

キスしたくらいで何だ!?
しかも琴子は俺がキスしたことなんて、知りやしない。
今日琴子があのオレンジの服を着てきたのを、俺のためだとも思ったのか!?

琴子が生活の一部のようになっていながら、本当に生活の一部になるとなぜかざわつく感情が生まれる。
何が何だかさっぱりわからなくて、イライラする。



「好き」と認めれば、楽になれるのだろうか―。

あの涼しい清里では何かわかったような気もしたが、今この暑い東京では俺の頭だけがまだそれを受け入れようとしない。

とにかく今わかるのはひとつだけ。


―飲まなきゃ良かった。

口の中で未だにねばねばするソーダー水の緑の液体の感触に、俺はものすごく後悔している――――。





***********

・・・で原作では、この数週間後に琴子のバースデーパーティーに初めは渋ってたけど、直樹が来てくれて勉強みてくれる・・・っと。
こんな直樹でごめんなさい(>_<)シリーズですね・・・。

琴子のサマードレスを勝手にオレンジ色にしてしまいました。








COMMENT

拍手コメントへのお返事です
>Fさま

こんにちは~。拍手ありがとうございます(*^_^*)
そうなんです、忙しいとか宣言してたのに、なんだかぽっかり時間が空くことになってしまって(ずっとじゃないですけど)、思わず妄想に走ってしまいました(^^;)
Fさまのコメにまたまた、ぶぶっ!と笑わせていただくツボがあって、すごく楽しかったです。ほんと、好きなくせに直樹!(笑)
汗かいた肉って、食べたくないですよね。だから直樹帰ったのかも(笑)。
かわいいコメすごくうれしかったです☆ありがとうございまいした(^^)
by chan-BB
2010/01/20(水) 16:15 [Edit
拍手コメントへのお返事です
>MAさま

こんばんは!読んでもらえて、私もうれしいです(*^_^*)
私、直樹視点って苦手なんですよ・・・。どうも私が直樹視点で書くと、きもい感じになっちゃって・・・。なので、書きかけで放置してる話も全部直樹視点なんです(>_<)
ああ、それなのに~、「俺の女」扱いを許していただいて、感激です~(*´▽`*)
そして私、忙しいを連発してたのに、大嘘つきみたいにまだ繁盛期は来てなかったみたいで(笑)、ピークがやってくるまでに、もうちょっと妄想活動してみます(^_^;)
優しいお言葉、どうもありがとうございましたm(_ _)m
by chan-BB
2010/01/21(木) 19:46 [Edit
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by
2010/01/21(木) 23:02 [Edit
コメントありがとうございます
>Maさま

こんにちは。私も何度コミック読んでも「ここだ!」って直樹が琴子に落ちた瞬間はわからないです。多分、徐々にだったんでしょうね。
結婚宣言の時に、「やっとわかったんだ」ってセリフありますけど、あの時より前からちょっと自覚あったに違いないと私は思うんですけどね~・・・。でも、直樹ってそれまでに恋愛したことないから、わかんなくて仕方ないですよね(*^_^*)
それと直樹って、意外に振り回されるの好きかもしれないですよね!M樹(笑)!
イタキス談義ってつきないですね。コメントありがとうございました♪

by chan-BB
2010/01/22(金) 12:35 [Edit

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千夜夢

Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
ここは、私の超個人的な妄想話置き場です。

原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。
私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
また、ブログ内の全ての文章・いただきものを含む画像等の無断転載・転用を固くお断りします。

まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
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