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2015.03.18 *Wed*

春の産声 1



そう長くはならないと思いますが、少し連載をしてみたいと思います。


・・・・・・・・・・・・・・・


「入江くん、プリクラ一緒に撮りに行かない?」

「行かない」

速攻断られてしまった。
しかしこのくらいは当然想定内。
あたしは、話を続ける。

「病院の隣の隣のビルの二階に、プリクラ専用のコーナーができたんだよ。いろいろなプリクラが撮れるみたい。今は、動画も一緒に撮れるんだって。ねえ、一緒に撮ってみようよ」

「無理」

「なんで?」

「あんな騒がしい場所に行きたくもない。プリクラなんて、中高生の女子ばかりだろ」

「カップルで撮るのも定番だよ~。二人仲が良いってことで、記念に撮っておこうよ~~」

「記念って何?写真なら、おふくろが普通の家庭以上に勝手に撮っているだろう」

「わかった。もういいよ」

断られるのは確かに想定内だったけれど、少しカチンときた。
「記念って何?」って、何?
入江くんって、入江くんって・・・本当に・・・。








「琴子さん、入江先生にプリクラ断られちゃったの?」

「もう、そうなのよ。すごいショック」

「夫婦なのに、プリクラ一緒に撮ったことないの?」

「ないよ、ないない!一緒に撮ってみたいな~」

「あたしからも頼んでみようか?」

「ホント?弥生ちゃんからも、入江くんにプリクラ勧めてくれる?」

「うん。言ってあげるよ」

そう言ってにっこり笑ったのは、杉本弥生ちゃん。
あたしたちの母校、斗南高校の一年生だ。
弥生ちゃんは、入江くんと同じA組で、さらに学年トップの成績らしい。
美人でしっかりしていて、女版入江くんって感じ。
あ、でも、入江くんは高校生の頃、 あたしのことを馬鹿にして、初めは全く相手にもしてくれなかったけれど、弥生ちゃんは違う。
斗南大病院で、あたしが弥生ちゃんの担当になったその日から、とてもあたしに好意的だ。
そして何より、あたしと入江くんの話を、いつも目を輝かせて聞いてくれる。
あたしも弥生ちゃんが嬉しそうにしてくれるから、ついついなんでも話しちゃって・・・。

「で、弥生ちゃん、今日の調子はどう?」

「絶好調よ」

ついつい、病状を聞くのがあとになってしまったりするのがあたしのダメなところ・・・。

「入江くんや、他の先生も順調だと太鼓判押してくれているもんね。よかった」

「うん。みんな、感染もなくって良い快復って言っていた。あたしって、ラッキー」

「・・・・・・」

弥生ちゃんの「ラッキー」という言葉を聞いても、あたしはすぐに同意の返事ができなかった。
確かに幸運な部分もある。
だけど、そんな簡単に「ラッキー」とすませていいのかどうか・・・。

「琴子さん、そんな顔しないで」

「え?」

「困った顔してる。『ラッキー』って言えないって顔してる」

「あ、そ、そんな」

「心配しないで。周りの人はどう思うか知らないけれど、あたし自身は、本当にラッキーだと思っているんだ。だって、命に別状がなかったんだもん」

「弥生ちゃん」

「未来もあるし、夢も希望も、まだまだ叶えられるんだよ?生きているんだよ?大きな事故に遭ったけれど、不幸中の幸いだよ。だからあたしは、ラッキーなの」

弥生ちゃんは、雨の日に自転車に乗っていて交通事故に遭った。
そして、右脚の膝から下を切断することになってしまった。

「いずれ義足もつけて、また二本脚で歩けるって言うし。また、自分で歩けるんだよ。本当に命があって良かったと思う」

「そうだね。それは、あたしもものすごく思うよ。夢や希望のある未来って、本当に素敵だよね」

「うん!」

そう語る弥生ちゃんの瞳は、本当に真っ直ぐに未来を見つめている輝きの瞳。キラキラしている。
人生を変えてしまうくらいの大事故に遭ったばかりだというのに、こんなに前向きでひたむきな患者さんに、あたしは今まで出会ったことがないかもしれない。
みんな、いずれは前向きに歩いて行っても、こんなすぐに「ラッキー」なんて言葉を言えるなんて・・・。



「琴子、ここで油売ってたの?」

「あ、モトちゃん」

「まだまだ仕事あるわよね」

「ごめ~ん。ついつい、おしゃべりが過ぎちゃって」

辛い事故に遭ったばかりの弥生ちゃんに、癒されるという言葉を遣うのは適当ではないかもしれない。
しかし、弥生ちゃんと居るととても癒される。心が安らぐ。
こんなに強くて優しい子がいることに、感動さえわいてくる。
そしてついつい・・・、患者さんにひいきはあってはいけないけれど、ここで長居してしまったりする悪いあたし・・・。


「弥生ちゃん、琴子が迷惑かけてない?この子、失敗、失言多いでしょう?」

モトちゃんが、弥生ちゃんの顔を覗き込みながら言う。

「まさか!私は、琴子さんにパワーをもらっているのに」

「弥生ちゃん・・・」

なんて良い子なの。
あたしの方がいっぱいいっぱいパワーをもらってるのに。

「それに、琴子さんと入江先生の話を聞くのが大好きなの。高校時代からずっと一緒で、今も一緒に働いているのに、こんなにずっとずっと恋人同士みたいに大好きで、本当に素敵」

「弥生ちゃ~ん」

あたしは、弥生ちゃんの愛溢れる言葉に、思わず抱きついてしまった。

「これこれ、琴子」

そんなあたしを、モトちゃんが引き離す。

「じゃ、次また夕方に見に来るね」

仕方なく、あたしはその場を去ることにした。

「は~い。楽しみに待ってます」

弥生ちゃんは、とても優しく笑っていた。



「琴子と弥生ちゃん、相性良いみたいね」

廊下を歩きながら、モトちゃんが話しかけてくる。

「うん。すごく良い感じ」

「それはよかった。で、昨日の件は聞いた?あんたが休みだったときのこと」

「あ、まだ。さっき来たばかりだから」

「弥生ちゃん、お母さんに、食事を投げつけたの」

「え!」

「味噌汁が弥生ちゃんのお母さんにかかってしまって、こちらで着替えを用意するって言ったんだけど、お母さんは大丈夫だって」

「弥生ちゃんは?弥生ちゃんは、なんでそんなことしてしまったの?そのあとはどうしていたの?」

「お母さんが言うには、普通に食事を摂っていただけなんだけど、急に弥生ちゃんが食事を手でバンってはらったって」

「なんで?」

「わからない。そのあと、みんなで『どうしたの?』と聞いてみたけど、布団をすっぽり被って何も言わなくて」

さっきの輝くような弥生ちゃんの笑顔を見ていて、すっかり忘れていた。
実は、弥生ちゃんは、前にもお母さんに大きな声を出していたことがある。
毎日、お見舞いに来るお母さんに「もう来なくていい」と激しく叫んでいた。

弥生ちゃんの家は、弥生ちゃんとお母さんと二人だけの家族だ。
弥生ちゃんのお父さんは、お母さんが妊娠中に病気で亡くなったらしい。
お母さんは、女手一つで弥生ちゃんを育てた。
事故の前後は会社を休み、今は毎日会社の帰りに必ず病院に立ち寄っている。
時には、朝に顔を出すこともある。
そして休みの日は、朝からずっと弥生ちゃんに付き添っている。
娘が心配で仕方がない気持ち、そして少しでも一緒に居てあげたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。
これまでも、不仲だったようにも全く見えない。
愛情不足なんてことも、全く考えられない。

だったら、なぜ―――?








「やはり、大きな事故のあとだし、受け入れられないものがあるんだろう。それが、一番信頼できる母親に向けられているんだと思う」

夜、家に帰って入江くんのその話をすると、入江くんはすぐにそう答えてくれた。

「そうね。普通だったら、やはりそう思うよね」

「普通だったら?どういうこと?」

入江くんは、読んでた本をたたんで、あたしの方を見た。

「あたし、弥生ちゃんが事故を受け入れていないようには思えないの。だって、本当に前向きなのよ。未来に夢や希望があるって、生きてて本当にラッキーだって」

「強がっているのかもしれない。そう自分に思い込ませているのかもしれない」

「でもね、強がっているような顔じゃないの。目がそんな感じじゃないの」

「目?」

「真っ直ぐなの。真っ直ぐにしっかり未来を見て、本当に希望をもっているようなの。だから、強がりで思ってもいないことを言ってるように思えない」

「だったら、なぜ母親にあたる」

「それは・・・。だから、それがわからないから・・・」

入江くんは、ふうとため息を吐いた。

「あんな大きな事故に遭って、脚まで失ったんだ。誰でもすぐに受け入れられる出来事じゃない。まだまだ時間が必要だと思う」

「そうね。でもね、弥生ちゃんは、もうそのことは乗り切れているような気がして・・・」

「だから、それだったら、なぜ母親にあたるんだ!?って、またふりだしに戻る!」

「そ、そうよね。そこがあたしもよくわからなくて・・・」

なんだかいろいろと噛み合わないなと思いながらも、あたしはどうしてもしっくりくる答えをみつけられない。
少し何かがひっかかって、それが解決したら、弥生ちゃんの本心がわかるような気もするんだけど、そのひっかかりが何かも今はよくわからない。
でも、でも、でも、何か、何かが・・・。

「もう、寝ろよ。病院での出来事を、家まで持ち帰ると疲れるぞ」

「う、うん」

多分、今日中に答えはでないと自分でも思っている。
入江くんの言うように、今日はもう眠ったほうがいいのかも・・・。

「早く寝ろ」

入江くんの言葉は少し乱暴。
だけど、ベッドに座っているあたしを、ゆっくりとベッドに寝かせるように誘導してくれた。
そして、指で優しくあたしの頭を撫でてくれる。
あたしは思わず目を瞑った。

「嬉しい。安心する」

優しい入江くんに、胸がきゅんとする。
弥生ちゃんにも癒されるけど、やっぱり入江くんにも絶大に癒されると思うあたし。
そうだ。
今なら、きっと・・・。


「入江くん、プリクラ一緒に撮ろうよ」

「無理。さっさと寝ろ」


なかなか敵は手強い――。




**********

少し重いテーマですが、タイトルのような読後感にできるようにしていきたいと思っています。
毎度ですが、ゆっくりペースになります。すみません。


COMMENT

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2015/03/18(Wed) 22:54 | [Edit
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2015/03/19(Thu) 12:54 | [Edit
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2015/03/19(Thu) 23:16 | [Edit
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2015/03/20(Fri) 20:10 | [Edit
コメントありがとうございます

マロンさま

こんにちは。結構思いつきの連載です。読んで下さってありがとうございます。
伏線というか、ベースにあるものは、まだ一話目ではわからないと思います(というかまだわからないように書いています(^^;))ので、ぜひぜひ今後の展開で想像していただければと嬉しいです♪
本当は「プリクラを撮ろうよ」ってタイトルで話を考えていたのですが、途中から脱線しました(笑)。
少し重めの話だけに、プリクラで少し軽快な感じをいれていけたらなと思います。入江くん、墜ちてくれるかな? ( ̄m ̄*)
オリキャラですが、弥生ちゃん親子を通して、イリコトの思い、成長が表現できたらいいなと思っています。
更新がどのくらいになるか未定なのですが(^_^;)、また続きもお付き合いいただければ嬉しいです。
2015/03/23(Mon) 13:23 | 千夜夢 [Edit
コメントありがとうございます

たまちさま

こんにちは。
まだ一話目で、軸はできているものの、今後をどのように書いていこうかな~と模索中です(^_^;)
一話目から、たっぷりのメッセージをありがとうございます。
琴子ちゃんの性格、入江くんの性格、全てしっかり把握されているたまちさんですから、各々の場面、描写を正確にとらえてくださり嬉しいです。
今回は、入院患者の一人として弥生ちゃん親子というオリキャラを登場させました。この親子を通じて、イリコトが今まで知らなかった世界を見ることになる・・・なんて、予告をしたらどんな大作だ!?って感じですが(^^;)、またイリコトに一歩新しい世界に踏み出してほしいと思っています♪
プリクラは、今後うまく小道具として使えるかな~?なんて思いつつ、入江くんって、慣れないプリクラでも、すごい操作が早く、気づいたら携帯に画像送信とかまでサササとできそうで、そのあたりを妄想すると野獣系で萌えます ( ̄m ̄*) が今回は、その妄想は置いといて!wプリクラもうまく話の小道具として使えればいいなと思っています。
たまちさんの幼い頃の話も、とっても心に染み入ります。
本当は少し思いテーマかと思って、前書きに断り書きを書こうかと思ったのですが、決してそれが不幸であるわけではないという思いもあり、そのまま思うように書くことにしました。
希望のある世界に、導いていけたらと思っています。
毎度の細切れ連載になるかと思いますが、また読んでいただければ嬉しいです。
2015/03/23(Mon) 13:34 | 千夜夢 [Edit
コメントありがとうございます

紀子ママさま

こんにちは。
ええ!?いや~ん、嬉しいです♪野獣はさておきw、こういう分野でも得意と思って下さるのが、超嬉しいです~~!期待に応えられる話になるかは・・・ですが、思ってるように今後話を展開させていけたらいいなと思います。
病院が舞台なので、どうしても良いことばかりの日常ではないイリコトだと思います。が、光を見つけるお手伝いもできますし、また反対に患者さんから教えられることも多々あると思います。
まだ琴子ちゃんの知らない世界―。それの扉を開けてくれるのが、弥生ちゃん親子―。という予告をいれておきましょうかね ( ̄m ̄*) うまく描けるかは相変わらずわかりませんが(^_^;)
そして入江くん!そうなんです!おもしろみもない堅物!幅がない!人間教科書!人間医学書!w
言ってることは間違いではないけど、人間ってそれだけじゃないですからね~。琴子ちゃんの野性のカンを甘く見てはいけないと思います ( ̄m ̄*)
2015/03/23(Mon) 13:41 | 千夜夢 [Edit
コメントありがとうございます

Yunさま

こんにちは。忙しいと言いながら、ちょいとあいた時間に連載なんて考えてしまって(^^;)でも、相変わらずこうして停滞してしまっています。自分で忘れないように、妄想頑張りますね。
重めの話は苦手ではあるのですが、その先にある光の方に注目したいという気持ちで、今回は取り組んでみました。いろいろな環境の方が読んでおられると思ったので、かなりドキドキしましたが、決して辛いだけの話にはしたいと思っていませんので、あとは、うまく書けたらいいな~と(^^;)少し他人事のように思っています。
NOをYESにかえる力のある琴子ちゃんですから、入江くんとプリクラ撮れたらいいな~と私も思いつつ ( ̄m ̄*) 、また時間みつけてぼちぼちやっていきたいと思います。
Yunさんもお忙しい中、読んで下さってありがとうございます。
2015/03/23(Mon) 13:50 | 千夜夢 [Edit
拍手コメントありがとうございます

珠さま

こんにちは。
連載の第一話も読んで下さって、嬉しいです♪ありがとうございます。
いろいろ思うことを書けたらいいな~と思いつつ、相変わらずまとまっていません(^^;)書いていくうちに、うまく繋がってくれることを自分で祈っています。タイトルを「春の産声」とつけたので、とにかくそこに向かってがんばります。まったり更新ですが、またのぞきにきてやって下さい♪
2015/03/23(Mon) 13:53 | 千夜夢 [Edit
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2015/03/24(Tue) 16:37 | [Edit
コメントありがとうございます

ねーさんさま

お忙しい中、コメントありがとうございます。
いろいろ想像していただき感激です。が、そんなに壮大なものにはならず、どちらかというと平凡に終わるように思いますので(^^;)あまり期待しないでくださいね。きっとねーさんさんの想像力の方が、壮大のような気がします(^^;)
はい、まさに、タイトルの「春」にかけて「弥生」ちゃんとつけました。というか、先に「弥生」という名前が浮かんで、「春」を想像したのです。今の季節にぴったりだな~と思っていたのですが、最大の問題点は、春の間に書き上げられるかな~ってことです・・・ははは(^_^;)
病院が舞台のイタキスでもあるので、琴子ちゃんもいろいろな患者さんに接してきたと思います。そこでいろいろな経験、成長してきたと思います。今回も、その一部のような話になればいいなと思っています。
が、書きながらまたどのように変化していくか・・・?毎度の見切り発車ですが、少しずつ話を繋げていきたいと思います。またお時間あるときに、更新みつけてやって下さいね。
2015/03/25(Wed) 15:13 | 千夜夢 [Edit

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プロフィール

千夜夢

Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
ここは、私の超個人的な妄想話置き場です。

原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。
私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
また、ブログ内の全ての文章・いただきものを含む画像等の無断転載・転用を固くお断りします。

まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
よろしくお願いします☆



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