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2014.10.23 *Thu*

青い偶像(後)



イタキス期間2014

後編です。
・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・直樹さん。あの、私おじい様からきいたんですけど、この話進めていいって直樹さんが・・・」

「ええ。ダメですか?」

「そ、そんな、と、とんでもない。わ、私なんて断られるって・・・そう思ってたから」

「沙穂子さんを断る奴はいないでしょ」

「・・・直樹さんにだけ断られなければいいわ」


穏やかな風が吹いた。
お互いの気持ちを探るかのように、なかなかの告白の場面ではないかと自分でも思った。
そして、良い場面だと自分で自賛するくらい、おれの心は冷静だった。
おれたちなら、静かで穏やかで、周りの喧噪を気にしないでいられる関係が築けそうな感じがする。
きっと合っている。
おれたちは、このまま結婚するような気がする。

・・・ん?この感じ、前にも感じたことがある。
いつだっけ?
琴子と会う前だ。琴子には感じたことのない空気だから。
琴子?なんで、今、琴子?
比べるのもおかしい。
そうだ。おれは、あの頃ずっと思っていた。


-こいつとは、絶対付き合うことはない。
-こんな奴とだけは、付き合いたくない。


琴子と居ると、中学時代におれが家族に抱いていた面倒さに似たものを感じることが多かった。
もどかしく、そして心がぐにゃぐにゃにえぐられそうになるような感情。
・・・なんだよ、その感情。
なんで、今、そんなこと思い出すんだ。
おれは、静かで穏やかな風を感じていたいのに。
それがおれには合っているはずなのに。

しかし思い出すのは、もどかしさを感じるあのときの不思議な感情ばかり。
おれに向けられる鬱陶しいほどの無償の愛。
おれは・・・おれは・・・。











「入江くん」

「・・・誰?入江くん、お知り合い?」

「あ、ごめんなさい。私、入江くんの中学の時の同級生で・・・入江くん、覚えていないかしら」

「白石?」

「そう!覚えてくれていたのね。白石沙綾です」


琴子と近所の本屋に出かけたとき、思いがけない人物に声をかけられた。
名前を聞いてから顔を思い出した。
中学の卒業と同時にカナダに留学した白石沙綾だ。


「えっと・・・、入江くん、奥さんですか?」

白石が、琴子を見ながらおれに聞く。

「はい。あたし、入江くんの奥さんです」

琴子が胸を張って、ドンと前に出た。

「まあ。風の噂で入江くんが学生結婚したって聞いていたけれど、あの入江くんがそんなに早く結婚するのかと信じられなくて」

驚きの表情を隠せない白石。
琴子は鼻の穴をふくらませ、妙に白石をじろじろと見た。
きっとまた、おれとどういう関係だったのかと、自分の知らないおれの中学時代をあれこれ妄想しているのだろう。

「白石、留学から帰ってきたのか?」

「うん、そうなの。日本で就職して、そして日本の企業で海外で活躍したいと思っていて」

「じゃあ、またすぐに外国に行かれるんですね?」

と、琴子が横から話に入ってくる。
なんて失礼なやつ。
妙な嫉妬か敵対心を感じているのか、琴子はやたらと白石に怪訝な態度を取る。

「なんだか、お二人でお出かけのところ、急にごめんなさいね。つい懐かしくて声をかけてしまって。じゃあ、私はこのへんで・・・」

何となく琴子の醸し出す邪険な空気を感じたのか、白石はその場を去ろうとする。
こうして心配りできるところが、昔の白石と変わってないと思う。
空気を読み、場を平穏に落ち着かせようとしてくれる。
それに比べて琴子は・・・。

「さようなら」

おれの前に立ち、さっさと白石に去ってくれとばかりに、すでに手を振っていた。

「白石」

「はい」

バツ悪そうにその場を去ろうとした白石に、おれの方から声をかけた。
琴子がジロリとおれを睨んでいるが、それはさておき。

「久しぶりに会えて良かったよ。頑張っているみたいで嬉しかった。充実した留学生活だったようだな」

「入江くん。うん、留学するときは、本当はすごく寂しくて迷っていたの。だって私、入江くんと別れるのが本当に辛く・・・」

「別れる?入江くんと!?どういうこと!?」

琴子が大きな声を出して割って入ってきたので、白石は慌てて言葉を言い直す。

「いや、違うんです。入江くんをはじめ、中学のお友達と別れるのが辛くって・・・。でも、あのとき、留学していて本当によかったと今は思っているので」

「入江くん、もしかして、白石さんと付き合っていたの?」

琴子が、目を血走らせておれを見る。
ああ、これはヤバイ。とおれは琴子を見ず、白石に話を続けた。

「白石、就職もがんばって」

「ありがとう、入江くん。会えて良かった。話せて嬉しかった」

「ねえねえ、二人は付き合ってたの?」

うるさい琴子を間に、白石とおれはどこか心の中で会話を噛みしめ、しみじみと別れた。



その後の琴子のうるさいこと--!!

「ねえ、入江くん、さっきの人と中学時代に付き合ってたの?」

「付き合ってねーよ」

「でも、なんだか二人の間に独特の空気があったよ。あうんの空気っていうの?あたし、感じたよ」

「ぷっ!でも、確かにそういう空気は白石との間にはあったかも」

「ええーーーっ!?」

そうだな。
中学時代、おれは付き合うなら白石のような女だと思っていたことがある。
穏やかでおれの空気を読み取り、静かな時間を与えてくれる女性。
おれはきっと、そういう女性と付き合い、一緒に過ごすようになるのだろうと漠然と考えていた。
あの頃は、自分の家族でさえ邪険に感じていたころだけに、せめておれの心を穏やかに導いてくれる女性がおれには合っていると思い込んでいたのかもしれない。
しかし現実は・・・・・・。


「入江くん・・・まさか・・・」

「なに?」

「あの人と結ばれなかったから、やけくそであたしと結婚とか・・・」

「はあああ?」

突拍子もないことを言い出す琴子に、おれはふいに現実に戻らされる。

「だって、なんだか二人、すっごくお似合いで・・・」

琴子の顔がだんだんと青ざめていく。
なんでそんなこと・・・。
おれは、琴子と結婚までしているというのに・・・。

「おまえ、バカか」

「バカなのは、入江くんも知ってるじゃない」

「そうだな」

そうだった。
琴子に、聡明さなど出会った頃からなかった。

「あの人、美人だったね。清楚な美人で、入江くんのタイプだよね」

「そうかな?」

もともと、おれのタイプの女性ってどんなだっただろう?
いや、そんなことおれは特に考えたことなかったが、琴子の中ではどうやらそういう風になっているらしい。

「あの人・・・沙穂子さんに似ている・・・」

「ああ・・・」

今、気づいた。
沙穂子さんと会っていたとき、前に感じたことがある空気があると思っていたのは、白石と一緒にいたときの空気だ。
琴子に言われて、おれは今頃そのことを思い出した。
こういうことは、琴子の方が勘が鋭いのかもしれない。
だから琴子が、さっきからやたらと白石に対してピリピリ殺気だっていたのかも・・・。


「なんかさ、入江くんって、ああいう清楚な美人に縁があるんだなって思っちゃう」

「は?」

「入江くんの周りには、これからもああいう人が現れるんだろうなって。似合っているから、引き寄せちゃうんだろうなって」

琴子はふうっとため息をついた。
さっきの敵対心のような戦闘態勢から、青ざめた顔になり自信を失い、そして今は、どこかそれを仕方なしに受け入れようと認めようとしている。
そして、

「でも、あたし、負けないから!」

またもや戦闘態勢。

「ぷっ」

「なに?なんで笑うの?あたし、真面目なんだよ」


「縁」があったのは、おまえの方だろうと思う。
おれが作り上げていた曖昧な理想やら、未来やら、そんなの全部ぶちこわして、おれの心の中に入り込んできたのだから。
いや、むしろ無理矢理作られた「縁」と言ってもいいかもしれない。くっ。
だけどおれは、それを選んだんだ。好んだんだ。


「しかし意外だったな」

「な、何が?まさか、あたしと結婚したこと?」

またもや、何をこんな自虐的なことを言い出すのやら。

「いや、おれってどこか自分を『枠』にはめようとして、静寂を求めていながら、だけどどこか喧噪を求めていたんだなって」

「どういう意味?」

「というより、自分の知らない自分を見るのを恐れながらも、それを誰よりも知りたがっていたのかもしれない」

思春期の頃もそういう感覚だったのかもしれない。
真正面からおれを見る親から目を反らし、そして少し距離を置いて穏やかな空気を与えてくれる級友に逃げ道を探していたように思う。
自分の持つ経験したことのない感情を認めることが、おれはとても苦手だったのだ。
そしてそれは、沙穂子さんの時にも・・・。


「入江くんの言うことって、難しすぎて何もわからない」

琴子が眉を八の字にして、泣きそうな顔でおれを見上げた。
琴子は、表情だけでとてもわかりやすい。
そして思ったことは、何でも言葉に出してくれる。

「おれには、おまえが必要だったってこと」

「ええっ!」

素っ頓狂な声を出す琴子。

「なに?」

「まさか、まさか・・・ううん、そんなことない。あたし、バカだから意味がわかってないだけで」

「何だよ?」

「まさか・・・それって、愛の告白?」

「よくわかったな。大正解」

「*#☆@#$&*ーーーーっ!!」


全く言葉になっていない琴子の叫び。
だけど、しっかりその思いはおれの心に響いている。
そういうものが、必要だったんだと思える今のおれ。
そして、鬱陶しいほどの無償の愛を、今はとても感謝している。


「入江くん、大好きだよ」


涙目でそう訴える琴子が、本当に愛しくて。
おれは思いがけず、本屋の隅で琴子にキスをしてしまった。




**********

入江くんの勝手な「青い偶像」を創り出し、萌えながら書こうとしながらも、だんだん書いててわからなくなってきた私(>_<)
入江くんの心は迷宮(ラビリンス)。
いや、私の頭がただ単に元々整理できていない迷宮(ラビリンス)。
お粗末でありました(T_T)

しかし一つだけ明解な部分があります。
ラストの本屋キッスは、間違いなく壁ドンですw~♪

COMMENT

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2014/10/23(Thu) 18:06 | [Edit
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2014/10/23(Thu) 19:43 | [Edit
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2014/10/23(Thu) 20:46 | [Edit
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2014/10/24(Fri) 12:35 | [Edit
コメント&拍手コメントありがとうございます

本当に毎度で恐縮ですが、お返事が遅くなって申し分けございませんm(_ _)m
コメント、とても励まされています。ありがとうございます。


ねーさんさま

またもや壁ドンを入れてみました(笑)。来年には、すでに古くさくなっているかもしれないシチュなので、今年が旬で使いやすいのもあります(*^_^*)
沙穂子が出てきましたよ!
白石を使って、沙穂子との関係を少し暴きたいような気持ちで思いついた話です。
天才は刺激を求めていたかもしれませんね。そしてその刺激はとても単純で、好きな女性が与えてくれるものだったという。いろいろな事を経て、入江くんは琴子ちゃんにたどり着きましたが、それでもまだ早かった結婚なので、結婚してからも気づきや刺激が多く、それはそれは琴子ちゃんをどんどん好きになることだろうと妄想してしまいます。
お忙しい中、いつも読んでいただきありがとございます。深いコメント、ありがとうございます。


たまちさま

いきなりお嬢登場でした!(笑)
入江くんの前には、どうしてもこういうタイプが集まりやすいのかな~なんて思いつつ、だけど合ってそうで合ってないことに入江くんもだんだん気づいたことだと思います。
直樹のいきなりやって来た青春の大波!って表現、たまりませんね!漫画を読んでいても、どれだけ振り回されて、だけどそれにいつしか快感なんかも覚えちゃって♪
合ってないと思いながら、琴子ちゃんに道案内されながら成長したってオチ・・・泣けます。たまちさん、本当にうまいです。
ところで壁ドンにどんな思い出が?w
私も高校時代に、壁ドンされてw(恋愛とか抜きで濃いナルシスト君に)脇からすりぬけた思い出があります。今でも級友の間で笑い話です。


紀子ママさま

いきなりの沙穂子(呼び捨て)に「けっ」のお見舞いありがとうございます。爆笑!
漫画から引用した台詞なのですが、私も書きながら、こいつこんなこと言ってたんだ!?とフツフツ怒りのようなものが沸いてきました。入江くんって、こんな面倒くさいやりとり嫌いだと改めて気づきましたよ。
琴子ちゃんは、どこかいつも自分は入江くんと似合っていないのかも?と思っているような気がします。だけど絶対入江くんを手放す気持ちもないと思いますが。
入江くん、何気にロマンチックな乙女心をきゅんとさせるシチュが好きかもしれません。今、壁ドンが流行っていて、入江くんと琴子ちゃんにそれが使えることに幸せを感じている私です~(*^_^*)
うらやましいとイメージしてくださって嬉しいです。今年限りかもしれないので(笑)、ぜひ堪能していただきたいです。


Yunさま

青い入江くんの後編でした。
今回のYunさんのコメントが、とても深くて、世界観が私の中でもぴったりで、何度も読ませていただきました。ありがとうございます。
入江くんにとって、琴子ちゃんのいない世界は、色のない世界、静かだけど面白みもなく、そして心にあれこれ刺激も与えてくれないものですよね。一度味わったらくせになる!w本当にそんな世界を琴子ちゃんに見せてもらったのだと思います。
琴子ちゃんは自分には自信がないですが、通常入江くんから身を引くなんてことはないと思います。通常でなくなって身を引きかけたら、入江くんが追いかけてきますしね(笑)。
ああ、本屋で本をバサバサ・・・たまりませんね。ぜひぜひYunさんも、妄想推進期間増長させてください!私にもとても刺激になります♪


atomさま

はじめまして!ずっと読んでいただいていてありがとうございます。
沙穂子さんが登場すると、多くの方がずうんと重い空気を感じられるみたいです(^^;)やはり今回も、改めて気づかれたのですね。私も今回原作を引用して書いてて、こんな図々しいこと甘えたことを言っていたのかとイライラした口です。
こういうずうんとした話もたまには書きたくなりますが、やはり私もきゅんとした話が好きです。
なかなか読者の皆さまと同じ気持ちで書けるかは自信ないのですが、そういうイメージは持ち続けたいと思います。
またぜひ訪問してやって下さいね。
2014/11/02(Sun) 17:05 | 千夜夢 [Edit
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2014/11/02(Sun) 20:14 | [Edit
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2014/11/03(Mon) 00:21 | [Edit
報告ありがとうございますw

たまちさま

聞きたかったので、嬉しいです~♪
もう何が残念な思い出ですか~、めっちゃ素晴らしい青春の思い出ですよ~(*^_^*)
この思い出があるかどうかで、昨今の壁ドンブームも楽しめるというものです。
でもたまちさんって、ちょっとリアル琴子ですよね( *´艸`)なんだか妙に納得です。
2014/11/04(Tue) 16:29 | 千夜夢 [Edit
コメントありがとうございます

みゆっちさま

こちらのお返事がものすごく遅くなってしまってごめんなさい(>_<)
思春期の入江くんを少し書きたくて、はじめに少し組み入れてみました。小難しい入江くんにしたら、なかなか普通の思春期でありますw
親をも面倒くさい~と思いながらも、穏やかではなくどこか面倒くさいことばかりに巻き込んでくれる琴子ちゃんに惹かれてしまうんですよね。そうですよね、琴子ちゃんといたら1+1=2にならない世界を見せてくれます。だからこそ入江くんは惹かれたのかもしれません。
よく原作でも、入江くんは先のことはわからないと言っていましたが、勉強などのことならなんでもわかってしまう入江くんだからこそ、どこか先のわからない人生に魅力を感じていたのかもしれないですね。そしてその何が起きるかわからないところが、とても楽しいものだと期待していたのかも(*^_^*)
私こそだんだん話がそれてしまってすみません。
入江くん、まさか自分が壁ドンなんてするとも、中学時代は思ってなかったでしょうね(笑)。
2014/11/10(Mon) 08:16 | 千夜夢 [Edit

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プロフィール

千夜夢

Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
ここは、私の超個人的な妄想話置き場です。

原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。
私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
また、ブログ内の全ての文章・いただきものを含む画像等の無断転載・転用を固くお断りします。

まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
よろしくお願いします☆



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