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2011.08.17 *Wed*

真夏の夜の夢 (前)


納涼祭2011

少し長くなったので、前後編に分けます。
・・・・・・・・・・・・・・・



「えっとね、モトちゃんたちと話してたんだけど、神戸の夙川ってところに『Lundi』ってケーキ屋さんがあって、そこの洋菓子の詰め合わせがすっごくかわいくっておいしいんだって~!入江くん今度の帰省の時、できたらそこで何か買ってきてくれたらうれしいな」

「夙川は神戸じゃないぞ」

「え?そ、そうなの?」

「それとおれ、この夏は帰省できなくなったから」

「そうなんだ・・・え、ええーーーっ!!?」


直樹が神戸の病院に行ってしまって、離ればなれのこの夏―。
夏休みには一度くらい東京に帰省できるだろうという直樹の言葉を信じて、琴子は離れた生活でも勉強をがんばり、そしてそれをとても楽しみにしていた。
いつものように琴子から直樹の神戸の部屋に電話をかける毎日。
直樹が電話に出てくれるのは、その何十分の一の確率だった。
居留守を使われているわけではない。
それだけ研修医の直樹の生活は不規則で、忙しいことを琴子も重々承知していた。
しかし、まさか――。

久しぶりに会えると思っていた夏休みに、直樹が帰って来られなくなるとは・・・。
しかも、こんないつもの会話の間にさらりとそれを言われてしまったものだから、琴子は目の前が真っ暗になって、途端にいろんな計画が全部頭の中からガラガラと崩れ去った。


「え・・・じゃ、じゃあ、あたしが神戸に行くよ」

「ダメだ。今はおまえにかまっている暇さえない。正直思っていた以上にこの夏は忙しいんだ」

「そ、そんな・・・」

「悪いけど今日もかなり疲れているし、明日も朝早いから、もう電話切るな」

「えっ!?ちょ、ちょっと入江くん、待って!」

「何?」

「あの・・・、またしばらく会えないんだし、今日はその・・・あたしにせめてもの充電を」

「は?だから何?」

「受話器越しに、入江くんから『ちゅっ』って聞こえるようにキスしてほしいなって」

「・・・・」

「だっていつもあたしばかりが『ちゅっ』してるから、今日くらい入江くんから」



――プツッ



「きゃーー!もう、ひどい、切っちゃったの~~!?」


直樹らしいと言えば直樹らしい。
プツリと電話は切られてしまい、琴子も半ば怒りながら、電話の子機をベッドの上へと投げつけた。
そして大きくため息をつく。

「ふう・・・。でも、夏休み会えないなんて・・・まさかの予定外だよ・・・」

改めて愕然とする琴子。
琴子が、この夏休みをどれだけ楽しみに、どれだけ励みに生活してきたことか。
それをあんなにあっさりと、電話の最中についでのように帰省できなくなったことを告げるなんて!と、琴子は直樹に怒りさえ覚えはじめていた。

しかしなによりも・・・、琴子にしたら割とあっさりとそれに引き下がったとことに気づいて欲しかった。
琴子は、直樹に会えるという人生最大に楽しみを奪われたというのに、直樹を責め立てて困らせなかった自分を、自分で褒めてあげたいくらいだと思っている。
日々の様子から、直樹がどれだけ忙しいかはしっかり理解していた。
だから琴子は、本当はごねて愚痴の一つも言いたかったが、ぐっと我慢したのだ。それ以上直樹を困らせるようなことを言いたくなかったから。
それなのに・・・。


「『ちゅっ』くらいしてくれてもいいのに・・・」


そう呟くと、押し殺していた感情が高まってきて、急に涙がこぼれ出してくる。
せめて直樹が、琴子の要望のキスくらいを受話器越しでもしてくれたら、少しは琴子の気持ちも晴れたかもしれない。
所詮、直樹と琴子のお互いを「好き」の比率は、いつまでたっても琴子の「好き」の方が大幅に勝っているのだ。
そう思うと、また頬に涙が一つつたう。


その夜は、直樹のいる神戸の空にも通じているであろう月を見つめ、琴子は泣きながら眠りについた。



・・・・・・・・・・・・・・・



「ええ~~!入江さん、夏休み、帰って来られないんだ~~!」

「うん・・・」

「が~~~ん。あたしも、久しぶりに夏休みには入江さんに会えると思って、それを励みにしていたのに・・・」

「ホントよね、あたしだって久々にイケメンの顔を拝みたかったわ。最近、天然のイケメン顔をあまり拝んでないからね」

「それだけ忙しいってことだろう。琴子は、医者の妻としてそれをある程度覚悟しなくちゃな」

次の日の昼休み。
琴子は病院の食堂で、幹、真里奈、啓太の面々の前で、直樹が帰省できなくなったことをがっくりとした表情で報告していた。


「でもまあ琴子、あんたにしたら、よくそれで引き下がって納得したわね。えらいわよ」

「モ、モトちゃん・・・」

幹に肩をポンポンと叩かれ、琴子は自分の心情をしっかり理解してくれている幹に感動した。
幹でさえ、この琴子のぐっと堪えた気持ちをわかってくれているのだ。
それなのに直樹は・・・それを思うと、また気持ちは落ち込んでしまう。
そしてついつい愚痴がこぼれてしまう。

「入江くんったら、ひどいのよ、昨日いきなり帰省できないなんて言われたから、せめてキスくらいしてほしいって頼んだのに・・・」

「キス~?」

「受話器越しに『ちゅっ』ってしてほしいって言っただけなのに、ガチャって電話切っちゃったの!!しかも無言で切ったのよ!!」

「・・・ぷっ」

「モトちゃん・・・今、笑った?」

「あ、いやいや、あまりに入江さんらしくって」

と言って、本当は笑っていたがそれを悟られないように、幹は真里奈と啓太の方に助けを求めるように目を逸らした。


「確かに電話越しにキッスなんて入江さんがしそうもないし、反対に電話をガチャンは入江さんがやりそうな行為よね」

と、真里奈。

「おれだって、そんな電話越しでキスなんて・・・絶対できねーな。こっぱずかしすぎるわ」

と、啓太。

「あら?でも、啓太は硬派だけど、好きな女の子には自ら電話で『ちゅっ』とかしちゃって、そして自分でそれに照れて、ガチャンと電話切ったりしそうなタイプにも思えるけど?」

「なっ!?」

真っ赤になる啓太。思い当たるふしがあるのかもしれない。
そして幹の指摘に、琴子も真里奈も、啓太ならそういうことはあり得そうだなとどこかひどく納得した。


「ま、もし入江さんが琴子に電話越しにキッスなんてしたって聞いたら、あたしそれは琴子の夢か幻でしょう?って言っちゃうけどね」

「モトちゃん~~・・・そこまで?」

「入江さんは、そういうことしないから入江さんなのよ。でもまあ、琴子が、そんなキッスしてくれる入江さんの幻でも見たいって気持ちはわかるけどね」

と言うと、幹が琴子の頭をぽんぽんと優しく撫でてくれたので、琴子はまた昨夜のショックな出来事を思い出して、少し涙した。
こうして友達に愚痴を聞いてもらえれば、少しは気持ちも楽になる。
夏休みに直樹に会えない寂しさは、友達と一緒に国家試験への勉強に励むのが一番なのかもしれないとさえ、思い直し始めた。


「あ、それと、モトちゃんが言っていた『Lundi』ってケーキ屋さん」

「あ、もしかして、入江さんも知ってたの?」

「夙川って神戸じゃないって」

「え!?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



数日後の夜―。
琴子は病院から帰って夕食を食べ、そして自室で勉強をしていた。
直樹が帰って来ないとわかったあの日から、やる気がなくなるとばかり思っていたのに、意外にもどこかいつも以上に勉強に励んでいた琴子。
それは、この勉強の先が、どこか直樹が繋がっているような気がしていたからかもしれない。


「琴子ちゃん、お兄ちゃんから電話よ」

「え?はい」

ふいに部屋のドアが開き、紀子が電話の子機を差しだしてきた。
琴子が子機を受け取ると、紀子はうふふと笑って、すぐに部屋のドアを閉めて姿を消した。
直樹から電話がかかってくるなんて、珍しい。いや、今までになかったことかもしれない。

何か送ってほしいものでもある―?
それとも、何か困ったことでもあったの―?

琴子は嬉しいはずの直樹の電話に、なぜか変な胸騒ぎを覚えていた。
そして一呼吸おいてから、電話に出た。


「もしもし」

「琴子か?」

「うん」

電話の向こうの直樹の声は、どこかいつもと違っていた。
声を包む周りの雰囲気が違うのだ。
直樹の声と一緒にに混じって聞こえる雑音が、直樹の部屋からの電話でないことを示している。
「入江くん、いったいどこから電話?」と琴子が思った矢先・・・。


「えっ!?あ、わ、わかった。わかった行くよ、うん、わかった!」

琴子はものの数秒で電話を切った。
そして取るもの取らず、財布の入ったバッグだけを持って部屋を飛び出す。


「琴子ちゃん、こんな時間にどこ行くの?」

「い、入江くんが、入江くんが、行ってきます!」

「え~?お兄ちゃん?琴子ちゃん~」

紀子に説明するひまもなく、琴子はすぐに家をも飛び出してしまった。


「やだ。あたし、すっぴん」

暗い夜道を走りながら、琴子は自分の姿に気が付いた。
家に帰って化粧も落として、琴子はすでにすっぴんになっていた。
それだけではない。リラックスできるようにと部屋着にも着替えていた。
Tシャツに短パン。そしてとりあえず的にひっかけてきたサンダル。
外出するには、あまりにひどい恰好だ。
でも着替えている時間はなかった。
なぜならもうすぐ、直樹が東京駅に着いてしまうというのだから――。



――今、新幹線の中からだ。20時半に東京駅17番線ホームに着く。そして21時発の新幹線でまた神戸に戻る。その30分の間に、会えるか?


それだけの短い電話だった。
時間がないので、なぜ直樹はそんな30分だけ東京に帰ってくるのかも聞けなかった。
だけど、会えるチャンスがあるなら会いたい。たった30分でも顔が見たい。
その気持ちだけで、琴子はそのために取るものも取らず、慌てて家を飛び出してきてしまった。


COMMENT

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by
2011/08/17(水) 20:34 [Edit
コメントありがとうございます

narackさま

体調のお心遣いありがとうございます。大丈夫です。なぜだかお盆を過ぎて、かなりすっきりしてきました。
どれだけお盆の行事にストレスを感じていたのでしょうね?(^^;)
そして一週間ぶりのUPでしたが、早い時間に気づいてくださってありがとうございます。
ちょっとごねない健気な琴子ちゃんが前編にはいました(*^m^*)
多分、そういう琴子ちゃんに余計に入江くんは「きゅん」とかきちゃったのかもしれません。
だけど受話器越しのキッスはしないという・・・(笑)。
ホント、夏休みあと少し・・・お互いがんばりましょうね。
by chan-BB
2011/08/19(金) 16:26 [Edit
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by
2011/08/20(土) 19:40 [Edit
コメントありがとうございます

吉キチさま

お返事遅くなってすみません(>_<)夏休み、ラストスパートです(笑)
電話でキッスなんて、やはり入江くんには似合いませんよね(^^;)意外に琴子並みに突発的な行動をする入江くんだったりします。そして、それにしっかりすっぴんでも受けて立つ琴子♪ある意味お似合いのカップルですよね♪

by chan-BB
2011/08/23(火) 08:51 [Edit

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Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
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私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
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まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
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