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2011.06.20 *Mon*

あたしの大切な人。おれの大切な人。


ちょっと前に書いて放置していた話を仕上げました。
とある平凡な1日に「愛」を――。
・・・・・・・・・・・・



「たいしたことねーよ」

「たいしたことある!だって入江くん、声がガラガラにかれてるじゃないの」

昨夜寝る前に、自分が少し風邪っぽいなということを直樹は自覚していた。
しかしその時はたいした症状もなく、対処する術も特になかったため、いつもより少し早めに就寝したにすぎなかった。
そして朝起きたら、風邪の症状は顕著に表れていて、声はガラガラ、そして喉はひどく痛む―。
直樹はすぐに「夏風邪」だと思った。今、病院でも熱を伴う夏風邪が流行っているから、多分その類だと。

「熱、測ってみて!」

「いいって、たいしたことねーよ」

普段あまり風邪をひかない直樹は、むしろたまに風邪をひくのは、生きている上で必要かもしれないとさえ思っている。

「ダメ!熱が高かったら、今日は病院お休みしなくっちゃ」

「休めるかよ」

「ダ、ダメよ!熱があったら、休まなくっちゃ」

「日勤だから、たいしたことねーし。もういいって」

「測って!!」

しかし、直樹が大丈夫といったところで、琴子は全くそれに応じない。
動く直樹に馬乗りになってその身体を固定すると、乱暴に直樹のパジャマのボタンを外し、持って来た体温計をそこから脇に無理矢理差し込んだ。
「痛っ」と脇を突き刺され、思わず直樹は琴子の顔を睨む・・・が、琴子のあまりに真剣な顔にそれ以上文句は言えなかった。
心配してくれている琴子のその真剣な顔は、泣きそうでいて、そして唇をぐっと噛んでる様子はどこか強い意志をも感じさせる。

「37度8分。熱あるわね!今日は入江くんお休み決定よ!」

「微熱だろ。おれは行くからな」

跨っている琴子を横に突いて転がすと、直樹はガバッと布団から起き上がった。

「ダメ、ダメ、無理はダメ!」

その直樹に琴子は再び正面から抱きついて、自分の重みでベッドに押し倒そうとする。
しかし、直樹は琴子の重さをぐっと受け止めて、ベッドには押し倒されなかった。

「大丈夫だって。まだこのおまえの重さくらいも阻止できるし」

と言いながら、直樹は琴子の背中をパンパンとゆっくり叩くと、琴子の顔を覗きこんだ。
それには、まだまだ体力もあると、琴子を安心させてやろうという気持ちがある。
しかし琴子の顔は、まだまだ冴えない。

「でも・・・」

「おまえも今日は日勤だろ。行くぞ」

「熱が上がってきたら、早退できる?今日は西垣先生もいるんでしょう?」

琴子は必死に懇願する表情で直樹を見つめる。

「ああ、わかってる。本当にやばいと感じたら、おれだって患者にかえって迷惑をかけるだけだから。自分でしっかり判断するよ」

まだ直樹の首に腕を巻き付けて、抱きついたままの琴子。
しばらくその姿勢で、直樹の顔を泣きそうな顔でじっと見つめると、チュッと直樹の唇にキスをした。

「・・・うつるぞそんなことしたら」

「毎日してるから、もう遅いよ。ふふ」

そうはにかみながら言った琴子から、やっと小さな笑顔を見ることができた。その顔につられて思わず直樹も小さく笑う。
そして首に巻き付けている琴子の腕をほどくと、直樹はベッドから下りて、琴子もそれについて勢いよくベッドから飛び下りた。



・・・・・・・・・・・・・・・



「入江くん、入江くん、入江くん!!」

斗南大病院の廊下を琴子は叫びながら走る。
ナースにあるまじき行為だが、琴子の視線の先にはもう直樹しか見えていない。

「走るなって!」

背後からバタバタとうるさい足音と琴子の声が聞こえて、直樹は確認することなく振り返ると同時に叫んだ。

「だ、だ、大丈夫?」

息を切らして琴子は直樹に追いつくと、すぐに直樹の額に手をあてた。

「おまえ、朝から何度目だ?」

現在昼の11時半。
朝、病院についてからすでに琴子は三度、直樹を探してはこのように額に手をあてて、熱のチェックをしていた。

「だって、心配なんだもん。熱が上がってないかって・・・あれ?」

「元気だよ」

「熱・・・下がってる?」

「だから、平気だって」

と言いながら、直樹は琴子の手を額から振り払った。
二時間ほど前に確認した時は、朝起きた時よりも熱が上がっていると思われたのに、今の直樹の額はひどく冷めていて、手だけで感じただけでも熱があるとは思えなかった。

「よかったじゃないの琴子~。もうこの子ったら、朝から入江さんの身体が心配だって、もう全然看護に身が入らないって感じで、大変だったんですよ・・・」

琴子と一緒にやってきた幹が、直樹の顔を見ては「なんとか言ってやって下さい」とばかりに困り顔で言う。

「悪かったな、桔梗。ほら、琴子、自分の仕事にもどれよ」

直樹は冷たく琴子に言い放った。

「入江くん、解熱剤飲んだでしょう!?そうでしょう!?」

そんな直樹に、琴子は白衣の腕を掴んで、顔を覗きこむ。
その手を直樹はまた掴んで離そうととするが、琴子はぎゅっと掴んでなかなか離さない。

「なんでもいいだろ、ほら、早くもどれって!」

「そんな解熱剤飲んで熱下がったからって、治ったわけじゃないし、ダメだよ無理したら。だいたい入江くんが解熱剤飲んだってことは、すごく熱も高くてしんどかったってことでしょう?やっぱ今日は昼から帰らせてもらって」

「琴子!!」

病院内なのに、思いがけず直樹が大きな声を出したために、周りの人たちも琴子たちの方を振り返った。
さすがの琴子もびくっとして、するりと直樹の白衣の腕から手を離してしまった。

「桔梗、琴子連れてってくれ」

そう言うと直樹は身体を反転して、また廊下を歩き出した。

「でも入江くん、あたし心配で、ねえ入江くん!!」

「琴子、もういいから。ほら戻ろう!」

まだ直樹について行こうとする琴子を、幹が腕を掴んで阻止をする。

「でも、でも・・・」

「琴子!!」

今度は幹に大きな声を出され、またびくんと琴子は一瞬動作をとめた。
きょとんとした顔で幹の顔を見る琴子は、みるみるうちに涙があふれ出していた。

「もう・・・この子ったら・・・入江さん、もう行っちゃったわよ」

と、幹が言う。「まるであたしが二人を引き離すいじめっ子みたいじゃないの」とひしひし思いながら。

「入江くん、多分相当しんどいんだと思うの・・・心配なんだもん」

さすがに病院内なので、泣くこともできず、琴子はぐっと唇を噛んでは涙を堪えながら幹に気持ちを訴える。
幹もなんだか切ない気持ちになりながら、琴子の肩に手をかけて仕事に戻ろうと促して歩き出した。
歩きながら幹は、「本当にこの子はいつも・・・」と思いながら、幼子を諭すように琴子に話しかける。

「入江さんは、幼稚園児じゃないわよ?風邪や熱くらい、ちゃんと自分で対処できると思わないの?」

「だって・・・心配でいてもたってもいられないんだもん」

「それはわかるけどぉ!でも、あんたも風邪くらいでホントに大袈裟すぎるわよ」

「だって・・・入江くんは、いつも自分に厳しいから。人のことにはいつもよく気づいてくれるけど、入江くん、自分のことは本当にいつも我慢するから・・・」

「琴子・・・」

幹は、琴子がただ直樹が好きすぎて、人以上に心配しているだけかと思っていた。もしくは、病気になった直樹にかこつけて、いつになく世話をしたがっているのかとも・・・。
しかし思っていた以上に琴子の本心は深いもので・・・幹はいろいろな意味を込めて、大きなため息を吐いた。

「ふ~~、ホントあんたって、結婚して何年もたつのに、入江さんが一番なのよね。自分の命より大切って感じ」

「命より大切よ!そんなのあたりまえじゃない!」

「・・・・」

それこそちょっと大袈裟に嫌みも込めて「命より」とか言ってやったのに、こんな真顔で即答してくるとは思わず・・・幹は目をまんまるに開いて、琴子の顔を覗きこんだ。

「なに?」

「いえ・・・あんたってホントしあわせね」

「それって、嫌み?」

「これは“嫌み”ってわかるんだ?」

と幹がニヤリと笑って反応すると、琴子がいつものように顔を真っ赤にして怒ってきた。

「は~?もう、モトちゃんどういう意味~~?」



・・・・・・・・・・・・・・・



「い・り・え・さ~~ん」

直樹は少し仕事の目処がつき、病院内の自販機でアイスコーヒーの缶を買っていたところだった。
その自販機の横から、幹が直樹に話しかけてきた。

「なんだ?またか?」

そう言って直樹はくるくるとあたりを見回す。

「くすっ!琴子は今はいませんよ。ちゃんとお仕事してますって」

「・・・そうか。それならいい」

心配性の琴子がまたやって来たと思い込んでいた自分にどこかバツ悪く思ったのか、直樹はコーヒーの缶を開けると、その少し慌てた表情を隠すかのようにぐびっといっき飲みした。

「体調は大丈夫です?」

「ああ。解熱剤飲んでから、いつもと変わらない状態だ」

「お薬のおかげでも、調子良いならよかったです」

「そうなんだ。薬の力を借りても、調子よければ今日一日くらい風邪でどうってことないのに」

と、また直樹が話し出す。
こうやってまたすぐに琴子のことに話題が変わること自体、直樹も琴子のことをいつも考えているのだと幹はつくづく思う。

「琴子言ってましたよ。入江さんのことが、『自分の命より大切』だって」

「・・・だろうな」

「・・・・」

コーヒーを飲みながら、顔色一つ替えずに答えた直樹に、幹は目を見開いて驚愕の表情をした。
こういうことを言われて、普通は2パターンくらいにしか男の反応はないものだと幹は思っていたのだ。

―それほどおれのことが好きなのか!?と感激するパターン。
―嬉しいのは嬉しいがちょっと・・・と重すぎてひいてしまうパターン。

しかし直樹はまさかの「当然」と言った表情をして、幹の顔をしっかりと見た。
こんなパターンってあるんだ!?と幹は驚きを隠せない。
が、その反面、この2人が普通のパターンに収まるはずもなくとどこか思いながら・・・。


「ごちそうさま」

幹は頭をぺこりと下げて、直樹に言った。
もうこのおのろけバカップルに完敗といった感じを込めて。

「・・・なにが?」

しかし直樹には、その“嫌み”さえ通用しない―。


「なんだかあたしの頭が、熱上がりそうだわ・・・・」

そうぶちぶち言いながら幹は続ける。

「それと琴子、本当に入江さんが風邪くらいで大袈裟ですけど、こうも言ってましたよ。『入江くんは、いつも自分に厳しいから』とか『入江くん、自分のことは本当にいつも我慢するから』って」

「ふ~~ん・・・」

直樹はコーヒーを飲みながら、どこか他人事のようにその幹の言葉を聞いている。

「だから、あんまり怒んないで下さいね。あの子入江さんに怒られるとしゅんとしちゃって、それがそのまま看護に表れるんですから」

「ぷっ!」

「笑い事じゃないですよ!もうあたしがいつもその尻ぬぐいですから!!」

噴き出す直樹に、思わず幹は地団駄踏んで抗議した。
そして幹は、ふと近くの時計を見て、慌てて現場に戻らなければと踵を返す。

「あらもうこんな時間!じゃあ、入江さん、また」

「あ、桔梗」

「は・・・い?」

思いがけず呼び止められて、幹はゆっくりと振り返った。

「琴子に仕事終わったら・・・一緒に帰ろうって言っといてくれよ」

またコーヒーを飲みながら、少し表情を隠して直樹がぼそっと言う。

「え・・・あ、は、はい!きゃーーーー琴子、喜ぶわ~~!必ず伝えておきます~~!」

自分のことのように喜ぶ幹を見て、直樹もつられてくすっと笑った。
幹は思う。

―やっぱむちゃくちゃだけど、琴子の気持ちって、いつも入江さんに伝わっているのよね~~きゃ~琴子、絶対喜ぶわ~むふふふふ~~!



・・・・・・・・・・・・・・・



「い、入江くん・・・遅くなってごめん・・・ごめん~~」


琴子が泣きそうな顔で、病院エントランスの一番端にある柱のところまで走って来る。
ここがいつも二人が日勤で帰る時に、待ち合わせにしている場所なのだ。
今日は定刻どおりに仕事が終わった直樹は、まだ来ぬ琴子をずっとここで待っていた。
幹は琴子が喜ぶと言っていたが、その喜んでいるはずの琴子はなかなかやってこなかった。
その時間、予定よりも一時間オーバー。


「うう・・・入江くん熱があるのにこんなに待たせちゃって・・・もうあたし、どうしていいやら・・・みんな忙しくて、誰にも伝言できなくて・・・」

もうその目からは、すでに涙があふれ出しそうになっている。

「いいよ。熱は下がったままだし。ちょっと患者が立て続けにトラブル起こしたって、さっき耳に挟んだし」

「そうなの!病気関係というより、雑用関係で・・・というか、入江くん、熱は?熱はどうなった?」

そう言うと、琴子はまた背伸びをして直樹の額に手を置いた。

「あ・・・下がったままかも?」

「調子いいって」

と、直樹も琴子に笑顔を見せた。

「えっと・・・入江くんが多分解熱剤を飲んだのが、朝の10時頃だと思うから・・・あれからえっと~8時間?8時間以上たっているよね!!?」

「ああ」

「わ~~、だったら、自力で熱もう下がったままなのかも~~!?このまま熱上がらないかも~~!?」

「自力でって・・・」

琴子はぴょんぴょんとその場で跳ねて、喜びを身体全体で表した。
その自分のことのように喜ぶ琴子の姿を見て、直樹も心の底から温かい気持ちになる。

「よかった、よかった・・・ホッとしたよ」

直樹の顔を見ながら、頬を紅潮させて琴子は呟く。
そしてその身体は、小刻みに震えていた。

「・・・琴子?」

直樹は琴子の手を取り、ぎゅっと握った。

「おまえ、いつから?」

険しい顔で直樹は琴子の顔を見る。
琴子の手は、氷のように冷たかった。
紅潮する頬に、そして少し涙を浮かべたせいだと思っていたが、しっかり充血している目。
そしてなにより、初夏だと言うのに、琴子の身体はぶるぶると寒さを堪えるように小さく震えていたのだ。


「バカか!おまえ、熱上がってきてるだろ!?」

直樹は慌てて、自分の来ていた薄手のブルゾンを脱いで琴子の肩に掛けた。
間違いなく琴子も、自分と同じく熱を伴う夏風邪に罹ってしまったと直樹は確信した。

「あ、ダメだよ。入江くん、それ脱いだら半袖になっちゃう。ダメ、寒いよ、熱が上がっちゃう」

熱があるにも関わらず、琴子は直樹のブルゾンを拒否する仕草を見せた。

「今熱が上がってきてるのは、そっちだろ!?」

思わず声を荒げてしまう直樹。
しかしそれとは反対に、ブルゾンを取り除こうとする琴子を制し、直樹はぎゅっとそれを掛けたまま琴子の両肩を優しく掴んだ。

「本当にあたしは大丈夫なの・・・それより入江くん、半袖だとまた熱が上がっちゃうよ・・・」

ブルブルと肩を震わせながら、この期に及んでまだ琴子はそう言い続ける。

「どっちが“いつも我慢する”ってんだ・・・」

「え?」

「とにかく、今日はこのままタクシーで帰るぞ!」

「ええ?タクシー!?」

“いつも我慢してるのはおまえの方だろっ!”という言葉を飲み込んで、直樹はブルゾンで琴子の上半身を包むと、肩を抱いてそのまま歩き出した。
琴子も直樹に背中を押され、そのままツツツと歩き出す。

「いいよ、タクシーなんか!もったいないよ!ここから乗ったら1万円以上かかっちゃうよ?」

「かまわない」

「ええ~~、それだったらその一万円、この前から言っている病院の近くにできたみんながおいしいおいしいって言うフレンチレストランで入江くんと使いたい・・・」

琴子はあまり積極的に歩かず、そしてタクシーに乗るならフレンチレストランで直樹とデートする方がいいと申し出る。
何度直樹と一緒にフレンチレストランに行きたいと言っても、直樹はいつもこの手の話は右から左に流して、しっかり聞いてくれたことなどない。
そして今日も、琴子のこの申し出に、直樹は全く耳を貸そうとしない。
直樹はただ琴子の背中を押しながら、タクシー乗り場に向かうばかりだった。


「ねえ、入江くん、そのタクシーに一万円使うなら、もっと大切なことにその一万円使おうよ」

「大切なことだ!!」

「え・・・?」

直樹は急に立ち止まり、琴子の肩を持って自分の方にくるりと向かせた。
その顔は、いつになく真剣で少し怒っている。

「今、タクシーで帰ることほど、重要なことがあるか!?」

「・・・・」

「もっとおれのことばかりでなく、自分の身体のことも考えろ・・・」

最後は小さく呟くと、また直樹は琴子の肩を抱いて歩き出した。
琴子も今度は素直に、下を向いて小さくとぼとぼと歩き出した。
あまりに琴子が急に静かになったので、直樹はそれがまた気になる。

「少し歩くのもしんどいか?おぶってやろうか?」

「え?う、ううん、違う違う!歩ける歩けるよ!」

慌てて琴子は顔をぶんぶんと横に振った。
歩けないほどしんどいなんてことはない。
琴子は別のことを考えていた。もっと別のことを――。


直樹の言った「大切なこと」というのは、何を指しているのだろう――?と。


勉強のできなかった琴子は、当然国語も苦手科目の一つだった。
でも今は、二人の会話を思い出しながら、直樹のいう「大切なこと」の意味を考えていた。
「タクシーに乗ることは大切なこと」と直樹は言っているように思える。
だけど、それは・・・もしかして「琴子が大切だから」という意味から転じているのだろうか?
もしそうだとしたら・・・、これは滅多に聞けない直樹の一世一代的な言葉になるかもしれない――!!?

ぐるぐるぐるぐる同じところを何度も繰り返しながら琴子は考える。
だけどやはりF組だった琴子には、ましてや熱が上がってきてぐらぐらと煮詰まった頭では、到底事の真相がわかるはずもない。
わからないけど・・・琴子の肩をぐっと抱く直樹の力が、いつになく強くて、そして熱がこもっていることだけはよくわかった。
琴子は思った。

――入江くんが、あたしのことを心配してくれてる。もうそれだけで十分だ・・・。


「あ、入江くん・・・おんぶはいいけど、もしお姫さま抱っこしてくれるのなら・・・えへへ、してもらおうかな?」

さっきおんぶの申し出を断ってしまったが、いつになく直樹が優しいものだからと、歩きながら琴子はちらちらと直樹の顔を見ながら、こんなことを改めて申し出てしまう。

「は?お姫さま抱っこ・・・?」

直樹が琴子の顔を見下ろして言う。

「う、うん・・・」

「バーカ。誰が病院でそんなカッコ悪いことするか!?それだけ冗談言えるなら、まだまだ元気だな」

「なっ・・・」

「ほら、早くタクシー乗れ!」

ドンと押されて、止まっていたタクシーの後部座席に琴子は押し込まれた。
“なんだもういつものちょっと意地悪な入江くんに戻っちゃってるじゃないの!?”と琴子はがっくりした。そして、

「もう、入江くん、意地悪・・・乱暴」

といつもと同じようなセリフを吐く。

「家についたら、おまえの好きなように部屋まで運んでやるよ」

「え?」

「運転手さん、世田谷まで」



――パタン



朝から何度琴子が体調を心配しても、「大丈夫」一点張りだった直樹。
なのに同じ夏風邪をひいた琴子には、”おんぶ”や“抱っこ”まで言い出す始末。
それを考えると・・・熱が上がってきているにも関わらず、琴子はタクシーの中で顔のにやにやが止まらなかった――。





**********

健気な琴子ちゃんを描きたいな~と思って、つい書いちゃったのがこの話。
ただそれだけです(笑)それだけで私も満足です(*^m^*)

COMMENT

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2011/06/21(火) 16:59 [Edit
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2011/06/21(火) 22:07 [Edit
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2011/06/21(火) 22:15 [Edit
コメントありがとうございます

ぴくもんさま

この前はギャグを書いたので、今回はギャグなしの話でと思いながら、どこかバカップル臭がプンプンするお話になってしまいました(*^m^*)
琴子の反応が、ぴくやんのイメージどおりで本当によかったです~♪なんでも簡単に涼しい顔をしてしちゃう入江くんですが、琴子だけはその内面の苦労や努力も知っているわけで、どうしても無理をしているんではないかと勘ぐってしまうのですよね。そうそう!入江くんの骨折事件の時も、この話とリンクする箇所がいっぱいあると思います。私もそれが頭の中にしっかり残っていますので。
モトちゃんは、はじめ登場さす予定はなかったのですが、ちょっと2人の足りない部分を補ってもらうために、便利屋さんのように登場してもらいました。このあたりも骨折事件の時に、ちらっとあった珍しい入江くんとモトちゃんのツーショット場面なんですよね☆
しかしなんといっても・・・ぴくやんのコメントは、またまた間違いなく私の創作よりもずっと深いもので(^^;)、私はそこまで考えて書いていなかったことまでを探求してくれて、驚きました。そして感動!!嫌みの通じる通じないの検証は、もう感嘆ものでした!!こちらこそ、素敵なコメント、ありがとうございます!!


吉キチさま

本当に、吉キチさんの言われるように愛情の面では「同じ価値観」の2人でありますよね(*^_^*)琴子の言動は、もう誰から見てもわかりやすいものですが、入江くんの言動は、なかなか外からはわかりません。
だけどその根底にあるのは、お互いに自分のことよりも相手のことが心から心配で、愛しくてたまらいってことでしょうね。
もともとは健気な琴子ちゃんをイメージして書きだした話なのですが、やはり最後に入江くんからの愛もちょっと見たくって、こんな「お互い」に仕上げてみました。
物質的な1万円とかになると・・・またお互いの価値観が微妙なところを感じてくれたのも、さすが吉キチさん!!(笑)最後の最後は、それも個人的なものではなくて、相手があってのことも気づいてくれてるのも、さすがです!!ありがとうございます(*^_^*)


rinnnさま

こちらこそ、またまた素敵なコメントありがとうございます!!
健気な琴子ちゃんを書きたくて、こんな話になってしまいました。泣きそうにかわいいって、とってもうれしいです~(*^_^*)入江くんもそう思ってくれてたら、いいのにな~なんて思いながらコメント読ませてもらいました。
そしてモトちゃん!!(笑)
はじめは登場を考えていなかったのですが、2人の足りないところを描くために、やはり彼女(彼?笑)の存在は非常に貴重でしたね!入江くんとモトちゃんの会話のところは、私もスムーズに書けたなと自分で思ったりしていたので(^^;)、気に入っていただけて本当にうれしかったです☆なんだかんだで、モトちゃんの代弁が入江くんの心に響いて、いつになく素直に「一緒に帰ろう」と言っちゃう入江くん♪うれし恥ずかしって感じですよね(*^m^*)
実は今回、タイトルがなかなか決まらなくって・・・(>_<)いつもタイトル決めてから書き出すことが多いのに、かなり珍しいパターンになってしまいました。
でもタイトルで、ドキドキしていただいてホッとしました。ま、内容そのまんまのダイレクトなタイトルだったんですけどね!(笑)
こちらこそ、楽しいコメント、ありがとうございました~(^^)/
by chan-BB
2011/06/23(木) 08:34 [Edit
拍手コメントありがとうございます

まあちさま

まあちさんに満足してもらって、さらに私は大満足です~♪ありがとうございます。入江くんと琴子ちゃんは、全然タイプが違う2人ですが、もう好きすぎてたまらないってところは似たものカップルかもしれませんよね!(*^m^*)
なんかまあちさんのコメントに、私一人笑っていたんですよ。もっと優しくお姫様抱っこしてあげたら琴子ちゃんも喜ぶんだけど、そうすると入江くんじゃなくなってしまう(笑)。そしてそんなツンデレな入江くんが私たちは大好きなんですよね!(これまた笑!)


ひろりんさま

イリコトの日常たっぷりの愛情を感じてくださって、ありがとうございます。
琴子ちゃんのもうわかりやすい大袈裟な心配と愛情表現と、なかなか他人にはわかりにく入江くんの様子を対照的に感じてもらえて、すっごくうれしかったです☆お互いが大事って根底は二人とも同じなのに、その各々のキャラが違うことで、かなり雰囲気が変わってくるのが、イタキスの魅力だったりしますよね(*^m^*)
そしてラストにいたっては、珍しく慌てた入江くんとそれににやけてる琴子ちゃんの対比!ひろりんさんに解説してもらうと、すごく私がすばらしく計算して書いたかのようですが、何も考えてなかったのです(>_<)キャーすみません。それなのに素敵なコメント、本当にありがとうございます!!(泣)
そして月曜日にUPが多い!(笑)よく気づいてくださってますね!月曜日は仕事休みなんです~(*^m^*)


カルピスさま

琴子ちゃんに「入江くんは命より大事」って言わせちゃいました(^^;)はは、アリですよね?書いてから問うのはいまさらですが、このくらいの気持ちはあるでしょう!と覚悟を決めて(?)今回話創りました♪
そしてカルピスさんも、入江くんの骨折入院を思い出してくださって、すごくうれしかったです。私もその場面は、今回書くにあたってすごく参考にした箇所でもあります。その前の出来事なのか後の出来事なのかは追求しませんでしたが、カルピスさんのコメントを読んで、あの時のトラウマからちょっとした入江くんの体調変化にも琴子ちゃんがやたらと敏感になると考えれば、やはりあの骨折事件後!の方が位置的にはぴったりかもしれませんね(*^_^*)
オタク部を書いたからこそ、なんだかこういう話も書きたくなってしまって(*^m^*) とりあえず何より、結婚したくなってくださったのが超うれしかったです!!ありがとうございます!


紀子ママさま

健気な琴子ちゃんにウルウルしてくださってありがとうございます(*^_^*)そして入江くんはとってもクールで言葉には出さないけど、こういう琴子ちゃんのことをよくわかっていて、そして入江くんも琴子ちゃんを大切に思っているのだと思います。いい夫婦ですよね!
そして紀子ママさんも、入江くんの骨折入院を思い出してくれてて(*^m^*) あの場面があるから、私もこのお話を創れたと思っています。骨折事件のラストは、病室での抱擁でしたが、今回のお話では多分お姫様抱っこを想像していただけたらうれしいですね♪
そしてこのお話を台湾版のラストを思いながら読んでもらったことも感謝します。いろいろと個々がもっと二人の幸せを補いたいラストでしたものね(ノ_<。)


あっこさま

琴子ちゃんみたいに大騒ぎして、誰から見ても心配しているようではないですが、今回の入江くんはとっても優しかったと思います。そしてこのクールな中に入江くんの優しさをしっかり読み取ってくださって、とってもうれしかったです♪ありがとうございます☆
琴子ちゃんのぶつける愛情を、入江くんは全部受け止めて、そして琴子ちゃんにさりげなくその愛情を返しているのかもしれませんよね(*^_^*)
そして入江くんとモトちゃんのシーン!気に入ってくださって、またまたとってもうれしいです~♪モトちゃんは、もうなんでもよくわかっていますし、そしてなんといってもこの二人の理解者であってファンでもある人物じゃないかと思っています(*^m^*) 私もこのシーンは気に入ってます(*^m^*)


無記名さま(6/22 9:12)

健気な琴子ちゃんをかわいく思っていただき、ありがとうございます♪お互いを思いやる二人に癒されてくださるのは、イタキスファンならではですね。私までうれしくなりました(*^_^*)


藤夏さま

藤夏さんのコメントを読んで、「あれ?私言ってたっけ?」と思ってしまった私。まさに今、次作をガッキーで創作途中だったんですよ!!(笑)だからガッキーが出てきて、かなりびっくりしちゃいました(笑)
今回のお話、すっごく原点じゃないかなと自分でも思っています。琴子が入江くんのことが好きで好きで、心配で心配で、そしてそんな琴子のことを入江くんはしっかり見ていて、そういう琴子のことがやはり誰よりも大好きなんですよね~(*^m^*)
元々は似たもの夫婦ではない二人ですが、お互いを思う部分では、本当に似たもの夫婦になっちゃった!っていうパターンでしょうか!?私もこんなイリコトが大好きです♪


あけみさま

今回のように思ってもいなかった緊急時に、お互いの気持ちが見えたりするもんですよね。お互いに自分よりも相手が大事で、琴子はそれがとっても周りから見てもわかりますが、入江くんはそうそう普段がツンツンですから!(笑)わかりにくいけど、やはり根底の部分では、琴子ちゃんと同じくらいに相手が大事なんですよね。
そして一万円!!もうあけみさんのコメントに爆笑しましたよ!!うちは私がケチなので、もう這ってでもタクシーは使わないと拒否することでしょう!(笑)そしてその一万円は自分のことに使おうと思ったりする・・・ホント、私はイリコトの垢をもらわなくちゃいけませんね(^^;)
by chan-BB
2011/06/23(木) 08:39 [Edit
イイ話ですー(>人<)
いつもステキな作品に感動したりハラハラしながら読ませて頂いています!

私も最近,風邪ひきましたが…そんな優しい言葉もらえず(笑)直樹よりは冷たくないと思ってたのに(笑)俺にうつすなよ!で終わりました(^^;;
お忙しいとは思いますが,ぜひこの続きも読みたいです‼‼
by きいろいとり
2011/06/24(金) 23:10 [Edit
コメントありがとうございます

きいろいとりさま

はじめまして!いつも読んでくださっていて、とても感激デス♪
入江くんは、普段は優しくないですが、こういう時は言葉はちょっと乱暴だけど優しいような気がして、こんなお話にしてみました(*^_^*)
この続きは、全然考えていなかったですが、お姫様抱っこされる琴子ちゃんを妄想するのはいいかもしれませんね~(*^m^*) 考えてみます(が!いつも忘れた頃に続編書いたりする私ですので・・・)
by chan-BB
2011/06/25(土) 23:41 [Edit

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プロフィール

千夜夢

Author:千夜夢

こんにちは。
素敵なイタキスの二次創作をたくさん読ませていただき、ついつい自身も二次創作なるものを書いてしまいました。
ここは、私の超個人的な妄想話置き場です。

原作者様、出版社様等とは一切関係ございません。
私の勝手な妄想話であるため、原作のイメージを大切にされる方、二次創作が苦手な方、二次創作が理解できない方は、ご遠慮ください。
また、ブログ内の全ての文章・いただきものを含む画像等の無断転載・転用を固くお断りします。

まだまだ拙い文章しか書けませんが、以上の注意をご理解いただき、読んでもいいかな~と思われた方のみ、ご閲覧下さい。
よろしくお願いします☆

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